温石|極めて静かな強さ

静岡への遠征は、一度でも行けば「来てよかった」と思わせ、次の訪問をすぐに予定に入れたくなる。

そんなわけで、西健一を訪れてから一か月後、再び新幹線に乗り、ローカル線に乗り換え、タクシーで静岡県焼津へと向かった。

目指すは🏅食べログ金賞の茶懐石、温石。

「焼津という土地で、もっと良いものを作りたい」

主厨・杉山乃互氏は、焼津出身の三代目料理人。高校時代から地元の重要な鮮魚店、サスエ前田魚店で魚の扱いを学んだ。卒業後は東京の名店・和幸で修業。地元に戻り、実家の老舗「温石」を継ぎ、19年に個室から板前形式へと改装、23年からは食べログ金賞を連続で獲得している。

席に着くと、卓上にはラミネート加工された小さなカードが置かれていて、温石の板前ならではの「テーブルマナー」を丁寧な日本語で説明している。

本当に極めて静かな板前だ。包丁を入れる音すらなく、板内の動きも極めて軽やか。飲み物を尋ねる以外、空間全体にほとんど言葉も物音もない。

大根に巻いたアジ。身の質感と鮮度が実に立体的。大根、紫蘇、葱はただ軽く支えるだけで、味わいを引き締めている。三切れの小さな巻物は、食べるほどに満足感が増していく。

ジンドウイカは火にほんの少しだけ炙ってある。一口目はパリッと、すぐに粘りのある柔らかさへと変わり、旨みが少しずつ口の中に広がり、細やかな甘みも伴う。鮮度の強さがありながら、香りは決して主張しすぎない。調味は控えめで、十分な優しさを残している。

「これは今朝揚がったばかりのアジです」

昼の12時50分、こんな熱々でカリッとした小アジを食べていると、幸福感がほとんど溢れ出てくる。衣は薄く、ちょうどいい香ばしさを添えるだけ。魚自体には十分な脂の甘みがあり、率直な甘さと旨みがぎっしり詰まっている。これだけの風味と脂があれば、思わず一杯欲しくなる。

「これもアジです、ヒラアジ」

板前があまりに静かなので、皆の視線は自然と杉山氏が魚を捌く動きに集まる。身のピンク色はまばゆいほどに鮮やか。調味はごく軽い柚子だけで、香りは繊細に、味わいを清潔に仕上げている。鮮度が前面に押し出され、抑制の効いた高級感がある。

白甘鯛の椀物。身の締まりと高い甘みが、ゼリーのように口の中を滑っていく感触はいくら語っても語り尽くせないほど。ここではほんの少しの塩を表面にのせるだけで、魚本来の甘みと旨みをもう一段引き立てている。

アオリイカと鯛の造り。食材そのものが持つ高い甘みと柔らかさは、見た瞬間からほとんど分かるほど。口に入れれば、質も処理の仕方も同じく美しく、清潔で精緻だ。

魚が良いだけでなく、料理の腕もまったく引けを取らない。

サワラはいつもながらの高い柔らかさと甘みで、繊細な脂の感じが炭火によってさらに穏やかになる。上にのった発酵葱は極めて繊細な葱属の香りを放ち、魚の脂をより引き締めつつ、植物性の清々しい辛みの層を加え、料理全体の香りと食感をより完成度の高いものにしている。

その瞬間、広東料理の生姜葱風味の魚団子を思い出させる。似た組み合わせでありながら、まったく異なる表現スタイルだ。

金目鯛の鱗焼きは、温石を代表する一皿のひとつ。

板前では杉山氏の手技が見られる。炭火で焼いた後、魚をごく近い位置まで持っていき、いわば「顔を寄せる」ようにして余分な脂を追い出す。

皮はパリッとして硬くなく、立った鱗の存在は口の中を一瞬でよぎっていく。中の身は半生の状態で、驚くほど柔らかく、旨みは繊細で、余韻の甘みが長く口の中に残る。

そのまま食べても十分に完結しているが、白髪葱と実山椒醤油をつけると、また別の面白さが生まれる。清々しい辛香の層が加わり、金目鯛本来の柔らかさと甘みをより際立たせる。

続いて、見た目は平凡な小さなアスパラガスも、実に絶妙な火加減で仕上げられている。ちょうどいいところで火を止め、香り、歯切れ、鮮度、柔らかさをすべて同時に成立させている。

温石の「ご飯もの」は、静かに、しかし確実に満腹にさせてくれる。

まずは桜えび飯。カリッと香ばしく揚げた桜えびは、一般的な店で見るものより一回り大きく、香りもより豊か。下の米は一粒一粒がしっかり立ち、ふっくらとした中に清水のような澄んだ感じがあり、桜えび本来の甘みとぴたりと合う。

正式な主食は銀鯧と筍の炊き込みご飯。強火で真っ黒になるまで炙った銀鯧の甘い脂が、じわじわと米に溶け込み、鍋全体にまろやかな旨みの層を加えている。筍は味わいをふわりと引き上げ、澄んだ香りを立ち上らせる。

追加のバリエーションも豊富。最後に選んだのは漬けサワラ丼。魚肉はほとんどゼリーのような滑らかさをまとい、歯の間で優しくとろけ、旨みは繊細で甘みも高い。

誇張なく、最高峰のサワラ丼と呼んでいいだろう。

料理が終わると、デザートは客自身が手を動かすDIY形式。杉山氏は厨房に戻り、この食事の最後を締めくくる大切な儀式の準備に入る。

静かに、一人ひとりの客のために抹茶を点てていく。

この締めくくりも、食事全体と同じく静かで、抑制が効いていて、始まりと終わりがはっきりしている。その完結感は、流れへの丁寧さだけでなく、杉山氏がリズムと温度、そして塩梅を見事に制御していることによるものだ。食事の記憶は幾重にも積み重なりながら、常に軽やかに扱われている。

技巧をひけらかすことも、産地をことさら強調することもほとんどなく、表現そのものすら音を立てない。しかし出てくる一皿一皿は、極めて良い状態の食材、精密な火入れ、そして深い料理の技によって、実力を皿の上にしっかりと乗せている。

優しく、抑制が効いていながら、終始力強い。

食材が最良の状態にあり、料理は最も適切な瞬間に手を止める。だからこそ食事全体が成立する。これがおそらく、焼津の茶懐石店・温石ならではの、なかなか真似のできない魅力なのだろう。

茶懐石 温石

Monday – Saturday

12:30 – 15:30

18:30 – 21:30

Chef’s Menu ¥24,000++

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