• 酉囃子|「鳥貴族出身」の大将、東京最強の焼き鳥店になるか

    酉囃子は今年に入ってから毎シーズン通っていて、好きな気持ちがどんどん加速している店だ。直近の訪問では、大将の仕事ぶりはさらに一段階上がっていた。鶏の脂が薄い夏の時期でも、手羽先は自分なりのやり方で皮をパリッと肉をしっとりと焼き上げ、首肉と赤身にもそれぞれ異なる香りの出し方がある。青森大根の一切れでさえ、甘くみずみずしく、記憶に残る一品だった。

    この仕上がりは、まさに人生最高の焼き鳥に迫る。

    店は昨年、麻布十番に移転し、酉囃子に改名したばかり。食べログは現在4.17まで来ている。この数字の重みをどう伝えればいいだろう——東京の鳥しきが現在4.43、何年も連続で銅賞を獲っている南青山七鳥目が4.19。

    開業一年で七鳥目と同レベルに追いついたのは、正直かなり驚異的なスピードだ。

    林大将は自分のことを「鳥貴族出身」だと自虐的に語るのが好きだ。学生時代は焼き鳥チェーンでアルバイトをし、その後フレンチやイタリアンでサービスを学び、ワインバーでソムリエも経験、神楽坂で9年間「焼鳥 茜」を営んでいた。新店では彼自身が焼き場に立ち、鹿児島出身の女将が接客を担当。焼酎とワインリストもかなり強い。東京では2〜3倍に値付けされがちな酒リストの中で、この店は一部でWS平均価格と並ぶ価格を実現している。

    こうした経歴は、料理にもはっきりと表れている。彼の焼き鳥とスタイルは、東京のどこか一つの流派に属する職人という感じではない。

    炭火と薪火を交互に使い分け、炭火で火入れを安定させ、薪火で香りを一枚加える。さらに芥子菜の葉、オクラ、神楽南蛮といった植物を串に忍ばせる。鶏肉は柔らかくあるべきところは柔らかく、パリッとすべきところはパリッと。同じ部位でも串の仕立て方を変えることで、思いがけない食感と味わいを生み出し、行くたびに食べたことのない新しい一品に出会える。

    夏の幕開けはキウイとジュンサイの爽やかな一椀。秋になるとそれが🎃かぼちゃのケーキに替わっていた。甘さの中に塩気があり、ふわふわと滑らかで、かぼちゃの香りが秋らしさを存分に運んでくる。

    皮付き鶏むね肉二種の食べ比べ。淡海地鶏から黒岩土佐地鶏とほろほろ鳥へと替わっていた。黒岩土佐地鶏は中心がまだわずかに透明感を残し、肉質はより締まっている。ほろほろ鳥はほんのりピンクがかっていて、食感はより柔らかい。皮際の脂が最後まで出し切らずに残ることで、両者の香りの違いがより際立っていた。

    いちじくとゆり根も新しい前菜だった。

    驚いたことに、この「ゆり根」は里芋で作られたもの。食べるとミルキーな香りが濃厚で、いちじくは意外にも高い酸味を担う役回りだった。

    意外な組み合わせで、ちょっとした驚きがあった。

    焼き鳥はいきなり本命から始まった。

    鶏むね肉に塩漬けの芥子菜の葉を巻き込み、白く仕上がるまで柔らかく焼き上げていて、中心まで噛んでようやく芥子菜の香りがじわりと出てくる。わさびのような鼻を突く刺激はなく、残された爽やかさが本当に見事だった。

    手羽先は黄金色の肉と淡いピンクの肉が見るからに食欲をそそり、しかも中には紅柚子が少し仕込まれていた。皮はパリッと、肉はしっとり、脂も十分なのに少しもくどくならない。柚子の香りの後には、手羽先の皮らしいほのかな焦げ香と脂の余韻が残る。

    もう一本食べたくなった🤤。

    横隔膜(はつもと)がまさかのオクラ合わせ。

    「三切れ、それぞれ食感が違いますよ。」

    口に入れる直前、大将から大事な情報が届く。

    最初のひと口のほのかな脂から、後半にかけてどんどん締まっていく横隔膜の食感まで、オクラがこの串に水分を加え、どっしりとした肉の香りを面白くしてくれる。

    普通の横隔膜を超えた、記憶に残る一本だった。

    途中で「揚げ団子」が一皿出てきた。これは女将の実家、鹿児島の名物さつま揚げ。

    ひとつはネギの香りがして、甘くやわらかく、みずみずしさ十分。

    もうひとつはチーズを挟んでクミンをまぶしてあり、香りがまっすぐで力強い。

    どちらも甲乙つけがたい好きさだった。

    食事の始まりからずっと炙られていたかぶも、ついに登場。

    外側の焦げた部分はすでに剥がされていて、残っているのはみずみずしい大根(かぶ)の身。甘く柔らかく、端にほのかな炭の香りが添えられている。横にある葉はただの飾りではなく、食べるとサクサクと香ばしく、意外な鮮度があった。

    食べ終えると、全身が爽やかになったような感覚。

    赤身は実は少し意外だった。食感には複雑さがありながら、味わいは一つの純粋な表現にまとまっている。

    内外二層の鶏肉が重なり合っていて、外側はみずみずしさを伴ったパリッとした食感、内側はより締まっていて噛み応えがある。食感は交差しながらも、肉の香りは純粋でまっすぐ——すごく好きだった。

    黒文字をひとつかみ火にくべると、その香りが鴨肉へと伝わっていく。

    肉自体は締まっていて、木の香りがはっきりと赤身肉に絡みつき、噛むほどに鴨肉の香りがどんどんくっきりしてくる。

    彼の焼き方が残している、噛むほどに立ち上がる肉の香りの個性が、本当に好きだ。

    ピーマンが半分に切られて、目の前に差し出された。

    「これ、実は鳥貴族で覚えた料理なんですよ(笑)。」

    大将は自分を少し茶化しながらも、驚くべき答えを出してきた。

    外側のピーマンはとろけるほど柔らかく、中の肉団子は繊細でジューシー、タレには香りと酸味の両方があった。

    中秋に近いこの時期、日本のファストフード店はどこも「月見」セットを出していた。

    まさか大将も自分なりの「月見料理」を用意しているとは思わなかった。

    卵黄と大根おろしが🍳目玉焼きに見立てられ、炙った手羽先の先端と根元の上に乗せられていた。大根の爽やかさ、卵黄の濃厚さ、皮のほのかなパリッと感、肉の締まり——さらに小さな軟骨が歯の間で弾ける瞬間まである!

    お酒が本当に進みそうな一品。

    油揚げにそっと春菊を巻き込んだ一品が目を引いた。

    続いて出てきた鶏首は、再び純粋な肉の香りに立ち返るもの。皮はパリッと、肉はしっとり、塩だけの味付けが潔い。

    強火で焼かれた鶏ハツは、普段食べるものよりも「ひと回り大きい」ように見え、聞いてみると外側の膜も含めた丸ごとのハツだった。

    噛むと本当に層がある味わいで、まず外側にまとわりつく香り、続いてゼラチン質の外皮とはじける脂、そして最後の中心にはほのかなコリッとした食感。まるで爆弾のようだが、舌の上で美しい花火を打ち上げてくれる。

    追加がなければ、主食前最後の焼き物はしいたけの肉詰めだった。

    まさか中にブルーチーズをひとさじ忍ばせているとは!!

    しいたけはパリッと、肉だねは柔らかく、ブルーチーズのわずかな臭みと渋みが卵黄に触れた瞬間、まろやかに変わる。個性の強い二つの味がここで手を組み、思いがけずおいしく仕上がっていた。

    最後はいつも大好きな🥭完熟卵のムースで締めくくり。

    本当に贅沢なほど満たされる一食だった。

    春に初めて訪れたときは、酉囃子は普通の焼き鳥屋より一段上だと感じるだけだった。初夏、鶏がもっとも脂の少ない時期になっても、火入れと食感、そして野菜の挟み方でコース全体をしっかり満足させてくれた。

    そして直近の訪問では、すっかり心を奪われた。横隔膜、鶏首、ハツと続く純肉の爆弾のような一連、そして鶏むね肉の芥子菜巻き、手羽の紅柚子仕込み、月見の手羽先料理といった組み合わせの驚きの両方があった。

    店の酒リストにも触れておきたい。外では見かけない、尽きることのない鹿児島の限定焼酎に加え、ワインリストの選び方も意外なほど上質でコスパが良く、WS平均価格と並ぶシャンパーニュまで見つけられる。

    本当に好きにならずにはいられない店だ。

    この先毎シーズン、ずっと通い続けたい。

    酉囃子 Toribayashi

    月曜日〜土曜日 17:00/20:00 一斉スタート

    おまかせコース ¥13,000(税込、別途サービス料10%、価格は季節の食材により変動)

  • 真似できない寿司界の伝説

    四谷すし匠は、東京の中でも時代性と伝説的な地位を兼ね備えた、古参の名店だ。

    創業者・中澤圭二氏がニューヨークで開いた店が昨年ミシュラン三つ星を獲得したことは言うまでもない。現在、銀座 鮨あらいの新井祐一大将も、麻布十番 鮨めい乃の幸後綿衣大将も、ともにこの店で修業を積んだ。

    東京はもとより、ニューヨークの寿司文化を代表するような伝説や人物を、数多く「育てた」店と言っていいだろう。

    四谷のこの店は開業から三十年以上、2016年からは二代目・勝又啓太氏が板場を任されている。

    内装は昔ながらの寿司屋そのもの。年季の入った木箱に魚が並べられ、席同士の距離も近く、いつも賑やかだ。勝又大将は客との会話が大好きで、笑いながら受け答えしつつも、魚を取り、包丁を入れ、握り、客の前へ差し出す——一連の動作は速く、無駄がない。隣では次の一貫がもう仕込まれていて、狭い空間を何人もが忙しなく行き来しながらも、不思議と秩序は保たれていて、時折オーバーなくらいの表情や演出も挟まれる。

    こうした市場のような「賑やかさ」を持つ板前は、東京でも実はあまり多くない。

    幕開けはカマスの小さな一貫、油揚げとネギを添えて。魚はうっすらと脂がのり始める季節で、豆腐と合わせるとなかなか香りがいい。

    寿司が交互に出てくる。春子鯛の上にはでんぶ。熟成された身は柔らかさが主役で、そこに細やかな甘みがついてくる。小肌には熟成の跡があり、銀色の皮の味がはっきりと表れ、魚そのものの存在感もしっかりしている。

    どちらにも明確な熟成の痕跡がありながら、絶妙な塩梅が保たれている。

    約10キロのアラ。ピンク色の身にのった透明感のある脂は、見るからに食欲をそそる。一番好きだったのは、脂の多い部分を噛んだ時のパリッとした食感で、噛むほどに白身魚の香りがゆっくりと広がっていく。

    まな板の上のカツオはまるで美しいルビーのようで、握りにすると香りが際立ち、酸の効いたシャリとの相性も抜群だった。

    きす(𬶮魚)は昆布締めで、熟成感がはっきりとしていて酸味もより立体的。舌先に当たる柑橘の香りが熟成した白身の匂いを抑え込み、口の中には逆に明るい余韻が残る。

    タコは目を見張る一品だった。

    特別に柔らかく煮込まれていて、分厚い皮にはゼラチン質のような食感があり、噛むほどに旨味が口の中にどんどん蓄積していく。

    脂がのっていながら、しつこさのない存在だった。

    マナガツオの番になると、大将は白シャリを用意した。魚は同じく柔らかく、食べると脂の潤いから来る甘みがある。続いて墨イカは甘くもちもちしていて、噛むほどにシャリの酸塩味とイカ自体の甘みのコントラストがどんどんはっきりしてくる。

    その後、太刀魚の炙りが登場し、ようやく待ち望んでいた脂の香りの一口が補われた。

    肴と寿司は一見気ままに交互に出てくるようで、最初は順番がつかみにくい。食べ進めるうちに、実は前後で呼応し合っていて、濃淡にもメリハリがあり、ペースはずっとコントロールされていたことに気づく。

    マグロとイワシは対照的で、それぞれに個性のある表現だった。熟成や漬けの跡がはっきりしていても、シャリに支えられて魚本来の香りはちゃんと残っている。

    赤身も中トロも、どちらもしばらく熟成させたもの。前者は赤く艶やかな身にわずかな弾力だけを残し、醤油とわさびに支えられて魚の香りがゆっくり立ち上がる。後者は口の中でほとんど溶けてしまうような食感で、酸味も美しい。

    イワシは銀色の皮の香りと脂が一気に押し寄せ、口に入れるとすぐに身がとろけ、香りはシャリに長く絡みついたまま離れない。

    客観的に言えば、アワビとサンマの表現はやや型どおりで面白みに欠けた。

    とはいえ客としては、6万円前後の客単価の店で、ある水準の食材を求めてしまうのは避けがたい。肴のこの部分に関しては、匠はやや物足りなさを感じさせた。

    やはりシャリを伴う二貫で、口の中の満足感を取り戻すことになる。

    車海老は頭に少しミソを残したまま、鮮度は申し分なく、締まった身と合わせて甘くシャキッと切れがいい。喉黒の手巻きは、初秋らしいほのかな脂のりを感じさせ、ちょっとした満足感を運んでくる。

    握り19貫と肴が終わり、時計を見るとまだ70分しか経っていなかった。

    板場にどれほどの連携があれば、これほど一皿ごとに流れるように、しかも忙しさの中にも乱れなく、ぴたりと繋がる構成が成立するのか、想像すらつかない。

    すし匠名物の「三大件」は、やたら長い追加メニューの中に隠れている。

    金目鯛の皮目炙り、鮟肝に西瓜奈良漬を添えたもの、そして「おはぎ」。

    本店の鮟肝には驚かされた。匠を代表する看板料理として、弟子筋や他店で何度となく再現版を食べてきたが、本家がここまで印象的だとは思わなかった。

    肝はねっとりと緻密で、甘みの強さを隠そうとしない。上にのった西瓜奈良漬は非常にパリッとしていて、一気に食感を切り替えてくれる。本来重く濃厚になりがちな組み合わせが、ここではバランスよく、満足感がありながらも爽やかに仕上げられている。

    食事が終わると、板前は一瞬でアイスクリーム屋に早変わり。十数種類ものフレーバーが並べられ、選べるようになる。お腹も満たされ、酒も数巡した頃には、大将もすっかりリラックスした様子。安納芋とミントのフレーバーの間で迷う。

    「もっと食べてもいいですよ。」

    誰もがモダンな審美眼、優雅な職人技、極上の魚貨を語る時代にあって、匠はあくまで古風な画になる体験で、十分すぎるほど特別な時間をくれる。

    板前の自由でくつろいだ空気感と、板場の中の整然とした秩序が、鮮やかなコントラストを成している。

    それは、頑なに守り続けられてきた、古き良き寿司体験ならではの魅力のようなものだ。

    老いたフェラーリも、やっぱりフェラーリ!

    発掘する価値あり(というのは冗談だけど)。

    すし匠 Sushi Sho

    月曜日〜土曜日 18:00/21:00

    (月・水・金は11:30の部も追加あり)

    おまかせコース ¥50,000++

  • 日本4位のピザが、まさかの前日予約で入れた話

    Don Bravo。食べログのピザ単品ランキングで日本4位、東京2位、さらに🥉ブロンズ賞も受賞しているピザ店。おまかせコースはフルで16,500円以下。

    しかも基本的に1、2日前の予約でも空いていることが多く、観光客にも「ちょっと贅沢したい」人にも驚くほど優しい。思い立った時にふらっと行けるのがいい。

    唯一の難点は遠いこと。渋谷・銀座・新宿・目黒、どこから行っても40分以上かかる。でも食いしん坊にとって、食のための理由が足りなくなることなどない😈。

    平雅一シェフは広尾のイタリアンレストラン「acca」で修業した後、イタリアへ渡り、ミラノやシチリアなどの星付きレストランで経験を積んだ。2012年に東京へ戻り、独立してDon Bravoを開いた。

    メニューは和伊折衷の料理とピザ窯でつながっている。近十種類もの定番・季節の薪窯ピザだけでなく、他の料理の多くにも、この窯が与える風味と温度を感じることができる。

    晩夏から初秋のメニューは🍆茄子から始まる、少し意外な組み合わせで。

    サクッとした茄子の上に、なんとパンチェッタ。ベーコンの脂が茄子とアスパラガスに染み込み、塩気と旨みの中にかすかなスパイス感も。ふと、より繊細な「茄子の肉味噌炒め」のようにも思えた——馴染みのある組み合わせなのに、層がずっと複雑。

    いちじくとトリュフ、その下に敷かれていたのは意外にも、薪で炙ったばかりの香り高い牛肉のタルタル。

    牛肉は生の食感を保ちながら、表面にははっきりと薪火の香りが。さらにトリュフ、パン粉、ナッツが重なる。口に入れるとわずかな辛さ、燻香がしっかり立ち、いちじくの甘さが生牛肉の旨みとトリュフの土っぽさを結びつけている。

    インパクトは強烈だった。

    見た目はちょっとしょんぼりした一本。

    ピザ窯で炙ったズッキーニに、見えないところでスペイン産ニシン、ブラータ、酸味のあるソース、カラスミが重ねられている。

    口当たりの柔らかいズッキーニが器となり、まず魚の塩気と旨みを感じ、続いてブラータのミルク感がやってくる。

    本当においしい組み合わせだった。

    美しくて大胆な組み合わせ、🐟アジと🍑桃。

    味噌漬けのアジに、酸味の強い麹トマトソース、桃、さらにハードチーズまで。桃のミルキーさ、魚の旨み、トマトの酸味——それぞれ個性が強いのに、一緒になると驚くほど見事に調和する!

    酸味は高いが、他の味もしっかり立体感を保っていて、料理全体がずっと爽やかなまま。

    カチョエペペ。こんな創作料理の店にこの伝統的な一皿が出てくるとは思わなかった。けれど一口食べると、ちゃんと自分たちのスタイルを見つけていた。

    まさかの、日本らしい上品で旨み高い表現。

    麺にはコシがあり、ソースには旨みがある。後半になるとピーマンの清涼感が少しずつ出てきて、黒胡椒と合わさって脂っぽさを引き締める。

    本来やや重たくなりがちな一皿が、ここでは香り高くすっきりと仕上げられている。

    牡蠣フライとトマトリゾットには、酸豆(酸っぱい長豆)のような酸味があって、ちょっと特別だった。

    イワシに豚肉ソーセージとガーリックソースを合わせた一皿は、魚よりも豚肉の存在感の方が強く、どこかタパス的な雰囲気がある……

    仔羊は火入れが見事で、厚みのある肉なのに噛むとカリッとした食感。ヨーグルト、クリームチーズ、ハーブ、スモークチリが羊肉をしつこくなくまとめている。肉は柔らかいが、羊本来の香りはやや控えめ。ポテトはよく揚がっていた。

    ずっとおいしかったメニューの中盤で、言葉にしづらい停滞期が続いた。

    まずくはないが、正直「おいしい」とは言いづらい🫠

    ピザはその場で作る、自分で選ぶ、組み合わせ自由のスタイル。

    定番5種、季節限定3種。最後はマルゲリータとイカ墨を選んだ。

    今年選んだピザの中で、間違いなく一番成功した、一番おいしかった一枚だった。どうすれば一口ごとに驚きがあり、個性があり、日本でピザを作る強みを際立たせながら、それでいてピザという食べ物への期待から逸脱しないのか——その答えがここにあった。

    まず、生地の焦げ香とドウそのものの香りがとても美しい。

    真っ黒な🦑イカ墨はマリナーラの延長線上にあり、旨みが見事で、オレガノとニンニクの香りも大胆に効かせてある。

    伝統的なマルゲリータは、意外にもトマトの香りだけで勝負してきた——存在感がありながら主張しすぎないトマト味に、軽やかなニンニクの香りが添えられていて、十分に個性的で、好きになって記憶に残る香りだった。

    定番も創作も、どちらもしっかりと記憶に残る一皿だった。

    デザートは濃厚なジャージー牛乳のアイスクリームで締めくくり、能登のジャスミン、梅、柚子、煮茄子を添えて。

    パッションフルーツとジャスミンアイスの相性の良さに驚き、さらに最後にもう一口茄子を味わえるという、有終の美。

    満足感があり、心地よい一食だった。

    特筆すべきは、店のペアリングがかなり加点要素だということ。一皿に一杯、どの組み合わせも1+1が2以上になる。

    お酒自体は必ずしも高級路線ではないが、少し年代を重ねた、普段なかなか出会えない一本を飲むことができる。合わせ方も見事で、料理の酸味、旨み、燻香、さらにはミルキーさにまで、もう一段の層を加えてくれる。

    客観的に見れば、すべての皿が同じくらい強い印象を残すわけではないが、ピザの完成度とアイデアは本当に見事。トマトにせよイカ墨にせよ、より大胆な組み合わせにせよ、ただコースの最後を締める一枚ではなく、説得力のある個性の表現になっている。

    唯一の問題は、国領は本当に遠く、京王線も本当に……地味にこたえるということ。

    でもきっと、このピザのためにまた(何度でも)行ってしまう気がする。

    Don Bravo

    火曜日〜日曜日

    17:30/20:00 一斉スタート

    シェフズメニュー ¥16,500〜

  • 東京生存ガイド|中華・四川湖南料理編

    海外で暮らす人には、結局のところ「中華胃」というものがある。

    東京に長く住んでいると、寿司や焼肉、和食のすき焼きに慣れたつもりでも、無性に中華料理が食べたくなる瞬間が必ずやってくる。理想は、できたてで鍋からそのまま出てきたような一皿、赤い唐辛子が散らばり、まだ湯気が立っていて、そこにご飯を添えて——痺れと辛さと香りが一気に押し寄せてくるあの感じ🤤。

    池袋や上野には中華料理店が意外と多いが、本当においしい一軒を選ぶにはそれなりの見極めが必要だ。

    この記事では「🌶️東京版・異国生存ガイド」として、池袋・上野・麻布台の中華料理店をまとめた。自家製腊肉(ラーロウ)を使った辛旨な湖南料理、川渝(四川・重慶)スタイルの爆炒げ小皿料理、そして洗練された街に隠れた川菜の名店まで。

    辛いもの好きの留学生や東京で働く友人たちへ、中華料理が恋しくなったら遠慮なくここから選んでほしい。

    このガイドがあれば、もう中華料理の選択肢は海底撈だけじゃなくなる😈。

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    🌶️ 湘聚

    🥢 辛さが爽快、腊肉まで自家製!

    🚉 最寄駅:池袋駅(山手線)

    💰 予算目安:3,000円〜

    東京で思いきり辛くて爽快な湖南料理を食べたいなら、湘聚が私の一番手だ。これまで東京で食べてきた川湘料理店の中で、唐辛子そのものの辛さ(味の素頼みではなく)を一番惜しみなく使っている店だと思う。

    痺れ、辛さ、鮮やかさ、香り——すべてが揃っていて、汗をかきながらも箸が止まらない。価格も非常に良心的で、素材にもしっかりお金をかけており、中には湖南の街角の食堂に戻ったような気分にさせる料理もある。

    臭豆腐は必ず頼むべき一品。東京でこんなにジューシーな臭豆腐が食べられるとは思わなかった。外はカリッと揚がっていて、噛むと中は柔らかく熱々、スープがどっと溢れ出す。発酵の香りとタレの香りがしっかりしていて、辛さより先に香りが来る。

    よだれ鶏もおいしい。鶏肉は弾力があって柔らかく、ニンニクとパクチーが大胆に惜しみなくのせられている。紅油の辛い味付けが絡むことで、鶏肉そのものの食感もより際立つ。

    店の自家製腊肉は必ず頼みたい一品で、個人的には腊肉と鹿茸菌(キノコ)の干し鍋が一番好き。腊肉の燻製香がしっかりとしていて、少し歯ごたえのあるキノコと合わさり、噛むほどに香りが増していく。

    酸味のきいた黄牛肉の細切り炒めもあり、牛肉は柔らかく、酸辣な味わいが食欲をそそる——出てきた瞬間、ご飯が欲しくなる。食欲旺盛な方には、鶏雑(レバーなど)入りのビーフンもぜひ。酸っぱ辛くて爽快、つるりとしたビーフンと相まって、気づけば丼一杯平らげてしまう。

    P.S. 店内はそれなりに広いが、どの時間帯も混みやすいので、予約をおすすめする。

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    🌶️ 麻布十川

    🥢 高級エリアに隠れた川菜の名店、辛さは中〜高辛を迷わず選んで

    🚉 最寄駅:六本木一丁目駅(南北線)、神谷町駅(日比谷線)

    💰 予算目安:5,000円〜

    麻布台ヒルズ近くにある川菜店・麻布十川。周囲をミシュランレストランに囲まれながらも、味も価格もかなり親しみやすい。

    最初にこの店に気づいたのは、デリバリーを頼んだのがきっかけだった。油と塩を控えめにとお願いし、さらに図々しく「糖醋排骨の軟骨を多めにできますか」と聞いてみたところ、届いたものは一つ一つきちんと対応されていて、一気に好感度が上がった。

    その後実際に店で食べてみると、辛さが選べることに気づいた。立地のせいか、「微辣」はかなり控えめで、あっさりめに作られている。少しでも辛さに自信がある人は、最初から「中辣」から始めることをおすすめする。

    特に仔姜黄喉(若生姜とセンマイ)の一皿にそれが表れている。黄喉の下処理がきれいで、噛むと柔らかくコリッとしていて、若生姜の香りが爽やかで心地いい。辛さを上げると、食べていて本当に痛快だ。

    水煮牛肉は肉質が柔らかく、冷凍後特有のぼそぼそ感がない。痺れも辛さもしっかり効いていて、見た目も味も、食卓の中で一番インパクトのある存在だ。

    麻婆豆腐は間違いなくご飯が進む一品。豆腐は柔らかく、ひき肉の香りが際立っていて、香ばしいご飯にかけて食べれば、シンプルながら中華胃には堪らないおいしさ。

    個人的に必ず頼むのは糖醋排骨。表面は薄くカリッと色づいていて甘い味わい、一口噛めば骨付き肉にもしっかり味が染みている。骨周りの肉は柔らかく、時おり少量の脂身がのぞく程度で、全体的に食べやすい。

    もちろん主食も触れておく価値がある。炒飯は黄金色に輝いて出てきて、米粒はふっくら、やや水分を含んでいて卵の香りも十分——単品でもおかずと一緒でもいい。葱油餅はちょっと罪深い一品で、皮はふんわりしつつ弾力もあり、満腹のはずなのについもう一口手が伸びてしまう。包子や餃子も自家製と聞いたので、食欲のある方はぜひ試してみてほしい。

    異国の地でこんなに新鮮な麺料理が食べられるなんて、本当にうれしい🥹🥹🥹

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    🌶️ 渝小渝

    🥢 水煮魚と豚足スープが絶品!

    🚉 最寄駅:上野駅(山手線)

    💰 予算目安:4,000円〜

    上野・御徒町エリアには目が回るほど多くの中華料理店があるが、渝小渝は何度も試して選び抜いた末に、一番気に入っている店だ。食材選びが良く、料理もしっかりしていて、素材と味わいの両方が安定している。

    お酒のお供に拍黄瓜(たたききゅうり)は必ず頼むべき一品。本場では定番のこの料理、東京では実は少し不遇な扱いを受けていて、注文数が少ないせいで冷凍きゅうりを使う店も多く、食感がぼんやりしていて残念な仕上がりになりがちだ。渝小渝は小さいながらも光るものがあり、きゅうりは新鮮でパリッとしていて、唐辛子の香りもパクチーの存在感もしっかりしている。留学生としての切なさがふと顔を出す瞬間——これこそ恋しかった、あの純粋な拍黄瓜だ。

    軽食の石屏豆腐の素揚げも味がよく決まっていて、ぷくっと膨らむまで揚げられていて、噛むと中は柔らかく熱々、唐辛子粉につけながら一口ずつ食べ進められる。

    辛い料理はひとまず置いておいて、店内で一番好きなのは間違いなく豚足スープだ。スープには漢方の香りがあり、大豆がベースの味にしっかりとした厚みを与えていて、豚足は骨から外れるほど柔らかく煮込まれていて、コラーゲン感たっぷり。スープも豚足もどちらもおいしく、ふと成都の路地の食堂に座っているような素朴な気分にさせてくれる。

    ご飯が進む料理もいくつか紹介したい。

    里芋と牛肉の一皿が本当に絶品で、里芋がもちもちとした食感を担い、タレは少しとろみがつくまで煮詰められていて、牛肉は柔らかさと弾力を保ったまま、わずかなニンニクの芽の香りが全体を引き立てている。ご飯に混ぜれば、香ばしくてやわらかく、気づけば大盛り一杯を食べ終えてしまう。

    火爆腰花(豚腎臓の炒め物)も見事で、腰花は柔らかく炒め上げられていて、若生姜の香りがくっきりと際立っている。

    酸辣鶏雑はパリッとした食感が魅力だが、味付けはもう少し思い切ってもいいかもしれない——厨房の手加減がやや控えめになることもあるようだ。

  • 絶品とうもろこし天ぷら|天ぷら浅沼

    浅沼へ行く前から、この店には興味があった。

    日本橋の小さな店。2022年開業、すでに食べログで🥈銀賞を二度連続受賞している。師弟関係や古き良き職人のイメージが強い天ぷらの世界で、若き浅沼の存在は際立って見える。

    言ってしまえば、独学で東京三位まで駆け上がった人だ。

    浅沼努武シェフは1994年生まれ。18歳で高校卒業後、山形から上京し「銀座天一」へ。帝国ホテル店、日本橋高島屋店を経て……そのまま独立した。

    スタイルは明快——衣を食べさせる天ぷら。

    食材ごとに衣の配合を変え、ごま油で揚げる。衣・食材・天つゆが一体となって味を作る。

    開幕は迷いなく🦐🍤🍤から。

    黄金色の海老トーストが先陣を切る。食パンで海老のすり身を包んだもので、割ると酥脆な殻の後に柔らかな海老の身。外は香ばしく揚がっていながら中の柔らかさは失われておらず、サクとふわのコントラストがそのまま伝わってくる。

    続く海老天は二尾。そのまま食べれば海老自体の甘みが、塩を添えればその甘みがよりはっきりと、天つゆにつければさらに旨みの層が加わる。私は天つゆの方が好みだった——衣が天つゆの良さを引き出している。

    𬶮魚(きす)も同様。サクッとした衣に天つゆをつければ十分な香りと旨みが立ち、中の身は細かく柔らかい。食材自体は上質というわけではないが、衣だけで十分に場を支えている。

    野菜が本当の主戦場になってきた。

    表面はうっすら酥脆、中は丸みを帯びてみずみずしい茄子。衣を破ると、中身はまるで蒸したてのように開いていく。塩を少し添えるだけでちょうどいい。

    しいたけも見事。とても柔らかく、わずかな歯ごたえを残しながら、噛むと少しの汁とともに甘みと旨みがゆっくりと広がる。強い香りで印象を奪うタイプではなく、淡く心地よい味わい。

    とうもろこし🌽

    この日いちばんのお気に入り。素朴で、そして見事。

    フルーツコーンを上に、甘みの強いコーンを下に重ね、薄い衣で軽く揚げている。みずみずしさと甘み・食感の異なる層が重なり、とうもろこしの香りも十分。本来は別々の籠に分けられている食材を、薄い衣一枚で巧みに一口にまとめている。

    記憶に強く残る一皿。あと十個は食べられる。

    パプリカの印象もあなどれない。

    普段パプリカの「おいしさ」といえば「パリッとした食感」が条件になりがちだ。

    けれどここで揚げると、もちもちとした食感に変わる。中心にわずかに残る衣が果肉と絡み合い、柔らかく香り高い。

    ここまで食べると、浅沼の野菜への理解には確かなものがあると感じる。茄子のみずみずしさを残し、しいたけの柔らかさを際立たせ、とうもろこしの甘い食感を組み合わせ、パプリカは独自の方法でもちもちとした食感に仕上げる。

    海鮮に戻って、キス、はまぐり、イカ。

    食材の鮮度は、銀賞クラスという評価軸の中では決して強みとは言えない。ただ、仕事ぶりには光る瞬間がある。

    例えばイカはしっかりとした弾力ともっちりとした食感を両立させ、中心にはわずかに透明感のある生の部分も残っている。厚みも噛み応えも十分で、中心は十分に柔らかい。火入れが見事。

    ホタテはより直球。とても甘く、とても柔らかく、鮮度も良い。衣を薄くすることで、食材そのもののシンプルな満足感が前に出てくる。

    ただ、天ぷらを食べる上で、まっすぐな喜びと脂の満足感が立て続けに重なると、後半はさすがにこたえてくる。

    この日の締めがまさにそれだった。小さなじゃがいもと穴子の衣はどちらもやや力が入りすぎていて、厚みがあり、やや脂っこい。天丼の存在感がさらに重くのしかかる。

    全体として、光ったのは野菜で、衣には確かなアイデアがある。だが魚介の使い方は決して良いとは言えない——アイデアと技術はあるが、食材が伴っていない。

    サービスにも首をかしげる場面があった。断ったはずの品がいつの間にか追加されていたり、日本酒のリストがわかりにくい中で「料理に合う一杯を」とお願いしたところ、まったく関係のない高価格帯の一本を強く勧められたりした。

    あまり印象の良いやり方ではない。

    さて、料理そのものに話を戻すと——

    一皿単位の火入れは美しくても、コース全体を通すと必ずしも心地よいとは限らない。前半の変化や新鮮さが後半まで続かず、代わりに油の香り、衣、満腹感だけが喉元に積み重なっていく。

    最初はおいしく、終わりはあまり芳しくない。

    一度試してみる価値はある😈。

    天ぷら 浅沼

    月・火、木〜日

    12:00 / 18:00

    シェフズメニュー ¥19,000 ++

  • 客単価3000元のレストラン、品質管理はお客の運次第?

    Mesebabaは、10年近く予約困難で知られる東京のイタリアンで、客単価は7万円、日本円で約3000元に相当する。

    ただこの一食は、レストランの「予約の取りにくさ」+「価格」と「実際の味」は、確かに分けて考えるべきだということを証明してくれた。

    この日の食事体験を言い表すのにぴったりの絵文字を見つけた——📉。

    もちろん、一度の食事体験だけでレストランの全てを語ることはできない。この記事は、皆さんの代わりに下見をしたと思ってもらえればいい。読んだ上でまだ行きたいかどうかは、各自で判断してほしい。

    シェフ高山大は宮城出身。東京・奥沢のVicolettoで働いた後、イタリアのフリウリやトスカーナなどで修業を積み、2013年に亀戸でmesebabaを開業、2023年に青山へ移転した。亀戸時代からすでに食通の間では予約困難店として有名で、メディアからは「夢のイタリアン」とまで評されていた。

    高山もすでにイタリア料理だけをやることに満足していなかった。2022年には早くもそのカテゴリーから飛び出し、自分自身の「高山料理」を試みようとしていた。移転後の店は2人だけで運営されていて、外食をより家で食べるような感覚に近づけたいという思いがあるという。その後彼が受賞した2024年のOCEANS AWARDは、暮らしや幸福感をテーマにした賞だ。

    つまり噛み砕いて言えば、シェフがもう十分にやり尽くして、自分の高級ホームパーティーのような店を開きたくなった、ということだろう。

    背景には確かな実力がある。その晩のコースも、前半は確かに美味しかった。しっかりとした食材を、シンプルかつ丁寧に扱っていた。

    幕開けは青森とうもろこしのスープ。今年最後のロットの青森産とうもろこしを使っている。

    キンキンに冷えていて、口に入れるとわずかに粒感が残る。最初にほのかな塩気が来て、続いて旨味と甘みが一緒に押し寄せる。高い甘さでありながら自然で、とうもろこし本来の味わいが美しい。

    続いて鰹とオリーブオイル。調理の過程はほとんどないに等しいが、いい魚だということが一目でわかる。身は光沢を帯びていて柔らかく、脂の香りも十分で、甘みと鮮度がどちらもストレートに伝わってくる。

    北海道産の大粒ウニをカリッとしたパンの上に乗せた一皿は、純粋に美味しい。ウニは甘く、オリーブオイルは香り高く、下のパンは噛むとカリッとしている。この手の誰もが好きになる一皿を嫌う人はいないだろう。

    揚げたアナゴが運ばれてきた瞬間から、香りがとても食欲をそそった。

    衣は思ったより厚く、噛んでから少し経たないと香りが追いついてこない。中の身の脂がその衣をしっかりと受け止めていて、揚げ物らしい満足感があり、身と衣の厚みのバランスも見事。火入れと塩梅、どちらも美しく仕上がっていた。

    ここまでは、確かに美味しかった。

    続いて卵を抱いた鮎が登場。たっぷりのオリーブオイルに加えて、塩の量もここで一気に上がった。

    塩気が頭と尾を支配し、腹の部分だけがかろうじて自分自身の味を保っていた。オリーブオイルの香りは強く、魚自体の脂の香りも負けていない。パリッとすべきところはパリッと、中は柔らかく、鮎の苦味から脂の香ばしさへとゆっくり移っていく。

    少なくとも全滅ではなく、腹の部分は美味しかった。

    ちょうどこの頃、別のお客の一組が店に到着し、食事全体の質もここから📉的な下降が始まった。

    九州・小倉の松茸は、大きさを見るだけで期待が膨らんだ。しかし実際に食べてみると普通で、繊維質や鮮度のせいか、むしろ少し湿っぽく感じるほど。しかも外側は厚く、塩味も強く、松茸らしさはほぼ消え去っていた。

    直前の揚げアナゴも同じく揚げ物で、火入れも味付けもバランスが取れていた。しかし松茸になると、半分食べただけですでに油っぽさで口がベタついてしまい、完全に興味を失ってしまった。

    全体の下降曲線を少しだけ引き戻してくれたのがGnocchiだった。

    赤牛と黒トリュフのじゃがいも団子は、団子自体は決して小さくないのに、とても柔らかい。ふわふわとしていて重くない。特に面白かったのは、時おり噛み当たる丸ごとの胡椒粒で、ふわっと辛さが顔を出し、香りを引き立て、脂っこさを和らげ、加点要素になっていた。

    Gnocchiそのものは確かに見事だったが、全体として見ると、上にかかった黒トリュフは香りの存在感がほとんどなく、さらに胡椒粒の強すぎる風味が重なって、このトリュフはほぼ無意味な存在になっていた。

    レモンリコッタのパスタに至っては、かなり完全に崩れてしまっていた。

    レモンの酸味と辛味が一気に押し寄せ、分厚いチーズもそれらを優しくつなぐことができていない。しかも香りのまったくない、極めて刺激的なタイプの辛さだった。

    コンビニのレモン塩味まぜそば⬇️を思い出すような味だった。

    😁

    メインの牛タンの赤ワインソースがけは、完全にがっかりさせられる一皿だった。

    牛タンは脂の多いタイプで、ソースも濃厚、塩気も強い。肉の脂と重たいソースが積み重なり、食べ進めるほどに濃さと塩気しか感じられなくなり、他の味を見分けるのが難しくなっていく。

    サイゼリヤの濃厚ソースがけご飯のようなファストフード感すらあった。フォークで上の分厚いソースを拭い取り、グラスのワインで流し込んでようやく飲み込めるほどだった。

    前半にあった、良い食材をちょうど良く調理した幸福感は、ここで完全にひっくり返されてしまった。

    プリンで締めくくり。

    同じテーブルのプリンは、カラメルの色も濃さもそれぞれ微妙に違っていた。もちろん色だけで味は判断できないが、実際に食べてみても、ごく普通の締めくくりにすぎなかった。

    まあ、こんなものかという感じだった。

    本当に、最初の数皿は食材が良く、オリーブオイルの使い方も見事だった。魚の脂、ウニの甘さ、とうもろこしの味わい、どれも食べていて幸せな気持ちになった。しかし後半は、gnocchiが一時的に持ち直した以外、香り不足・味付け過多・ソースの塩気過多という問題が次々と現れた。前半と後半の落差は、正直かなり大きかった。

    予約が取りにくいことは当然期待感を高めるが、この日の残念さは、期待値が高すぎたことだけが原因でもないだろう。

    友人と振り返りながら思ったのは、後半になってカウンターに次々と客が入ってきたことで、忙しくなった途端にレストラン自体のオペレーション能力が追いつかなくなったのではないかということ。これはあくまでその晩の私たちの推測にすぎないが、品質のムラにつながったのではと思う。ただいずれにせよ、この価格帯である以上、店が忙しいかどうかは、客の体験で穴埋めされるべきものではないはずだ。

    東京には美味しいイタリアンがいくらでもある。自分を本当に幸せにしてくれる料理のために、胃袋は取っておいた方がいい。

    👉 nacol、三和、🇮🇹合集、🍕38th、Cignale系、filejaーーどれもこの店より上だ。

    mesebaba メゼババ

    Omakase Menu 70,000+

  • どうしたら素朴な炭水化物をこんなに美味しくできるのか|fileja

    イタリアンだらけの東京にあって、filejaは本当に飾らず、それでいて個性的な存在。何より、予想を裏切るほど美味しい。

    小さなカウンターを一目見れば、並んでいるのはパスタを打つ道具ばかり。高級食材で見せる店ではなく、価格は港区の名店の10分の1ほど。メニューは手書きの紙一枚だけ。Tortelli、Gnocchi、Bigoli、Quadretti、Chitarrina……冷製から甘味まで、十数種類のパスタがコース全体を貫いている……

    大人になったら選ばなくていい。一食ですべて食べさせてもらえる。

    厨房を回すのはシェフ実山勝一ただ一人。手打ちパスタで知られる「トルッキオ」で修業を積んだ人物だ。

    すべてがその場で作られ、専用の小皿に乗せて目の前に運ばれてくる。生地を延ばし、成形し、茹で、ソースを煮詰め、肉を煮込み、盛り付ける——一皿一皿が実に手際よく仕上げられていく。十数品を通して、提供のテンポと口の中の満足感がぴたりと噛み合っていて、リズムと味の起伏の付け方が絶妙だ。

    バリエーションの豊富さはもちろん楽しいが、本当にすごいのは味付けが常に過不足ないところ。

    塩味、酸味、肉汁、クリーム、海鮮の旨味——ほぼすべての皿が心地よいバランスでまとまっていながら、それぞれがはっきりと異なる個性を持っている。次の一皿が来るたびに、「え、これもまたどうしてこんなに美味しいの」と思わずつぶやいてしまう。

    着席して最初のスパークリングワインを飲み終わらないうちに、ちょうど成形されたばかりのじゃがいも詰めTortelliが運ばれてきた。皮は薄く、中のマッシュポテトは香ばしく、塩加減はちょうどよく、ブイヨンのような温かい旨味もほのかに感じられる。

    続いて、どこか家庭的で美味しいツナとパンのサラダ。しっとりとしたパンがトマトとパプリカの汁を吸い込み、オリーブがほのかな塩気と旨味を添え、ツナはシンプルな缶詰だが丁寧に処理されている。

    鮭とポレンタも一口サイズで、程よいところで止めている。ポレンタは口に入れると細かい砂のようにほどけ、ほのかな甘みがあり、鮭の脂と寄り添っている。

    技を見せようという気配は一切ないのに、食べていてとても楽しい。

    この見た目は地味なイカスミのGnocchi。もう……ほんとに……美味しすぎる🥺

    Gnocchiは意外なほど柔らかく煮込まれていて、ほとんどお餅のようなもちもち感があり、それ自体にほのかな甘みがある。外側にはしっかりとした塩気と旨味のあるイカスミソースが絡み、まず旨味が一気に押し寄せ、飲み込んでからようやく甘みを解き放ってくれる。

    もちもち、旨味、塩気、甘み——すべてが一つに混ざり合っている。パスタへの予想を完全に裏切りながら、好きにならずにはいられない。

    巻貝のShort Pasta、ソースには海鮮出汁とバターの風味がはっきりと感じられ、鮮度も厚みも十分。ショートパスタ自体に少し弾力があり、この厚みのあるソースをちょうどよく絡め取る。

    さっきまでの柔らかくもちもちとした雰囲気から一転、ここでぐっと輪郭がはっきりしてくる。

    続くエビのすり身団子となすは、粒感から弾力のある柔らかさ、そして一番下に敷かれた柔らかななすまで、食感の重なり方が自然で、エビの甘みも負けておらず、美味しい。

    ここでシェフが客の背後を回り、カウンター前の空いたスペースを見つけると、Torchio per bigoli——手回しのらせん式パスタ製麺機——を取り出し、その場でパスタを押し出し始め、客にも一緒に作業するよう誘ってくれた。

    太麺自体の存在感が強く、柔らかさの中に弾力があり、ソースをしっかり絡め取る。海鮮ソースの旨味が引き込むようで魅力的だが、一番好きだったのは、塩漬け卵黄のようなきめ細かいざらっとした質感と、最後になってようやく姿を現すトマトの香りだった。

    たった二口なのに、もう少し名残惜しい気持ちになる。

    なす料理で口をさっぱりさせたあと、小さいながらも「本気」の一皿が運ばれてくる。

    ふわっと香る柚子と、しっかりとした牛肉の煮込みのコントラストが印象的。牛肉は柔らかく煮込まれていながら、噛んだときにほどよい弾力が残り、里芋は美しい形を保ちながらも口の中では軽く崩れていく。

    数少ないパスタ以外の料理だが、こちらもシンプルで美味しい。

    スプーンで皿の底に残った牛肉ソースをすくい終える頃、顔を上げるとシェフはパスタカッターを取り出し、次の生地の仕込みを始めていた。

    Quadrettiには豚肉のじっくり煮込んだラグーが合わせられ、肉ソースは非常に純粋で、麺の茹で加減もちょうど良い。半分ほど食べたところでリコッタを絡めると、ソースに一気に繊細さが生まれ、もともと厚みのあったトマトと肉の香りが軽やかに変わる。

    同じ一皿の中にある2つの表情、先に軽やか、後で濃厚——こうした小さな変化がたまらなく心地よい。

    Chitarrinaには鶏肉のラグーが合わせられ、惜しみなく敷き詰められたトリュフが乗る。誰もが好きにならずにいられない香りの爆弾だ。

    この一食、実は特に高価な食材が登場しているわけではないが、ここで使われているトリュフの質は決して手を抜いておらず、香りがはっきりと鼻に抜けてくる。下に敷かれたクリームの濃度も絶妙に調整されていて、香りは立ちながらも重たくなりすぎない。

    多くの説明を必要としないタイプの美味しさだ😋

    パスタを茹でるだけでなく、filejaのリゾットも非常に見事。最近は牛肝茸(ポルチーニ)を使って米を炒め、じっくり煮込んだ和牛のほほ肉を合わせている。

    見た目は相変わらず控えめだが、味わいは驚くほど美味しい。ポルチーニはほんのり食感を残し、きのこの風味が十分に効いていて、塩加減が香りを的確に引き立てる。ほほ肉は脂の柔らかさと肉の香りがどちらも見事に仕上がっていて、上にかかったソースがさらに香りを一段引き上げる。

    「ご飯を一口、肉を一口、必ず一緒に食べてほしい」

    言葉にしがたいほどの絶品💥

    コースの最後——その日9品目のパスタ/ご飯は、燻製チーズのShort Pastaだった。

    控えめ+1、だが細やかな工夫がたっぷり。ソースが少し弾力のある麺にしっかりと絡みつき、燻製チーズだけでも十分香ばしいところに、削り節が少し混ざり、旨味の層をさらに広げている。

    デザートはまさかのパスタ生地で作ったキャラメル団子?!

    お茶の香りのアイスクリームが特に滑らかに仕上げられていて、熱々の団子を包んで一緒に食べると、甘さの中に塩気があり、少しもちっとした食感もあって、まるで濃厚なミルクティーを一口飲んだかのよう。

    うう、ちょうどいい満足感。

    本当に、食べ終わった瞬間から2ヶ月後のメニュー替えが待ち遠しくなる店だ。

    10種のパスタは、形、硬さ、水分量、ソースの厚みだけでそれぞれの体験を描き分けていて、最後のデザートに至ってもなお気持ちよく楽しめ、重さをまったく感じさせない。

    2時間半という時間は、まるでシェフが一つのゲームをプレイするのを見ているかのようで、ストーリーには起伏があり、画面は次々と切り替わり、観客である自分はただ楽しんでいればよかった。

    同時に、彼は和とイタリアンのもう一つの側面も見せてくれた。日本の食材を大量に使うわけでも、イタリアの伝統を強調するわけでもないのに、パスタという発想を使って日本料理の枠組みに合うコースを作り上げている。だからこそ、彼の料理の多くの味わいは他の店では出会ったことがなく、目を見張らされる。

    東京の他のパスタ専門店と比べると、PrimoPassoよりは肩の力が抜けていて、Cignale系列よりはパスタそのものに重きを置き、Emiliaのような家庭的な小店よりは洗練されている。予約も比較的取りやすく、2日前でも席が取れるほどで、コストパフォーマンスも非常に高い。

    掘り出し物を見つけた〜。11月が待ち遠しい。

    fileja

    Lunch 12:00 –

    Dinner 19:00 –

    Omakase Course ¥13,500 ++

  • ハンバーガー一つのために1年待つ?

    Atami——世界で唯一の薪火ハンバーガーおまかせ。日本全国でも、ハンバーガーという料理を最も真剣に突き詰めている店の一つだ。

    ランチのみ、6品のコース、席数は8席、待機期間は1年。食べログのハンバーガー百名店に選ばれていて、多くの食通が「東京No.1のハンバーガー」と口を揃える店でもある。

    カウンターの雰囲気だけでもう食欲をそそられる。奥には薪火のグリル、手前では調理の様子がしっかり見える。半円形のカウンターに、みんなの視線が自然と集まっていく。

    たっぷり175グラムの肉だねは、生肉の塊から始まり、火から離したり近づけたりを繰り返しながらゆっくりと締まり、色づいていき、最後には深い茶色に仕上がる。脂が絶え間なく滴り落ち、炭火に触れるたびに火花と香りが一緒に立ち上る。

    この焼き上げの一部始終だけで、すっかり食欲をかき立てられてしまった。

    本番が始まる前にも、意外と量のある前菜がいくつか胃を満たしてくれる。

    夏の終わりに避けられないとうもろこしを薪火で焼き、スープに仕立てた一品。鮮度が非常に高く、薪の香りに惑わされて、まるで肉の風味まで感じるほど。甘みは余韻の中でじわじわとにじみ出てくる。

    とうもろこしのスープのはずなのに、飲んでみるとしっかりとした旨味があり、幕開けとしてはなかなかの驚きだった。

    新鮮なイワシに燻製パプリカソースを合わせたタパス風の一皿で、馴染みのある組み合わせながら日本らしい魚介の個性を出している。しっとりとしたパプリカソースが明らかに主役で、ほのかな甘みと辛み、最後に万能ねぎが香りを引き立てる。魚自体の存在感は思ったより控えめだった。

    雪下熟成じゃがいもの天ぷらがフライドポテトの代わりを担っていて、外はサクサク、中はきめ細やか。凍らせたスイカとバジルのグラニテが口直しの役割を果たしていた。

    主役が登場する前から、すでにお腹が半分満たされてしまっていた。

    ここでようやく、肉だねがハンバーガーの形になって目の前に現れる。

    100%黒毛和牛に、炭の香りをたっぷり吸い込んだバンズを合わせている。見た目はずっしりしているが、食べてみると思ったより軽やかに感じるのが意外だった。

    肉だねは意外にも空気を含んだような軽さがありながら肉汁はたっぷり、炭火と薪火の香りが肉の隙間という隙間に染み込んでいる。甘酸っぱいソースが肉汁を受け止め、食べていて実にストレートな満足感がありながら、単調さは感じさせない。

    バンズの表面はかじった瞬間やや硬くパサつく印象だが、中身はちゃんとふんわりしている。肉汁と甘酸っぱいソースがじわじわと染み込んでくると、むしろ食べるほどに手が進む。

    全体として、非常に満足度の高い組み合わせだ。ハンバーガーはもともと最もストレートなストリートフードだが、ここでは豪快に肉を頬張り口いっぱいに肉汁が広がる快感を保ちながら、備長炭の香りと火入れの加減を見事に仕上げている。

    この最もシンプルな幸福感を、もう一段階引き上げている——これはもう間違いなく、ネクストレベルのハンバーガーだ。

    ハンバーガーのためだけにわざわざ訪れる価値は十分にある。ただ、前菜の一部はもう少し磨きをかけてほしいところ……

    atami

    Lunch Only 11:00 –

    Hamburger Omakase Course ¥7,800+

  • 一週間前の予約で入れる極上の魚の寿司店、しかも北京・上海より安い?

    東京で、ほんの数日前の予約で入れる「普通の」寿司店に、まさか海辺で魚を追いかけるような喜びを見つけるとは思わなかった。

    「真鯛は今朝獲れたもので、飛行機で運ばれてきたんですよ」「鬼虎魚も今朝の水揚げです」「うちの魚は豊洲を通さず、産地から直接送ってもらっています」「xxさんやxxさん(東京のとある寿司🏅金賞店2軒)よりも早く魚を仕入れています」

    大将は一言一言さらりと話すが、その口調にはどこか小さな誇らしさがにじんでいる。

    明石、淡路島から愛南、天草まで、つる一、長谷川、藤本、村、山﨑といった日本屈指の仲卸から仕入れている。魚好きにとっては、本当に満たされる一食だ。

    大将・西岡洋介の経歴も一風変わっている。幼い頃から釣りを愛していたが、最初に進んだのは建築業界。その後、魚に関わる仕事がしたいと和食の道に転身し、さらに寿司店へ。修業期間はさほど長くなく、25歳で独立して世田谷に「経堂にし岡」を開いた。2023年に高輪へ移転してからは、現在の「鮨にし岡」となった。

    彼のスタイルは、地価の高い東京においてひときわ尖っている。一日6席限定で、コースの価格は北京や上海の寿司店よりも安いほどだ。

    師弟関係を語らず、熟成に頼らず、複雑な調味もあまり仕掛けない。だが大将は各地の港の漁師たちと直接の友人で、朝獲れの魚をその場で処理し、飛行機でそのまま店まで運ぶ——それを軸に据えている。

    東京に美味しい寿司が不足しているわけではないが、金賞店をも凌ぐ魚を、これほど満足のいく形で一食にできる店はそうそうない。西岡は確かに唯一無二の、何度でも通いたくなる体験を提供している。

    最初の二品の酒肴だけで、すでに十分な見応えがあった。

    朝獲れの真鯛は、皮、縁側、腹、背の身を組み合わせた3つの大きなブロックで提供される。魚の骨で取っただしに支えられ、一口目に鮮度が口の中に広がり、続いて力強く輪郭のある甘みの余韻が続く。身の弾力は非常に高く、水分も十分で、小さく重ねられた皮によってその食感の違いがより明確に際立つ。

    続く鬼虎魚は、朝のうちに明石から空輸されてきたもの。

    小鉢にたっぷりと盛られ、魚の身の上に皮やさまざまな内臓が覆いかぶさっている。薄く身で巻かれた一口一口に驚きがある。身は水々しくも歯切れが良く、皮はさらに爽やか、内臓、特に肝の柔らかさと潤いにたどり着くと、歯の間の弾力が一気に引き締まる。

    「タコは届いた時の海水でさっと茹でただけです」一本の脚をいくつかに分けた部分だけでも、まったく違う食感が楽しめる。わさびを少し加えると、タコ本来の淡い香りがかえって立ち上がり、噛むほどにほのかなミルクのような香りまで感じられる。

    ちょっとした自慢げな様子の中に、食材を無駄なく使い切る節約の精神も見え隠れする。

    豆蛤のお吸い物は、具の形がほぼ完全にだしへと溶け込んでいる。豆蛤と水だけで取っただしは、純粋でありながら絶えず立ち上る甘みが、十分に高級感を感じさせる。

    続く雉羽太——石斑魚の一種——には、ねぎと紫蘇の芽をほんの少し添えるのみ。身は甘く歯切れが良く、噛んだ瞬間の率直さと清らかさが心地よい、美しいまでの純粋さだ。

    真似鰹になると雰囲気は一変し、火を通した上に、見るからに濃厚なたれがかけられている。口に入れると脂がじんわりと溶け出し、だしの旨味は凝縮されているが、味付け自体は控えめで、残るのは魚本来の香りだ。

    酒肴が終わる頃には、西岡の個性はすでに十分に明確になっていた。魚は良く、味付けは軽やか——ともすれば少し物足りなく感じるかもしれないが、それでいて確かな、拒みようのない美味しさがある。

    握りのパートに入ると、魚が主役でシャリがそれを支えているのがはっきりと感じられる。

    目板鰈は小さなエンガワを乗せた一貫で、柔らかく弾力のある食感の中から、精緻な魚の香りがじわじわと滲み出てくる。

    イカは日本の寿司店ではごくありふれた食材で、質の高いものであっても、きめ細かな包丁仕事がなければ本領を発揮しにくい、いわば「大将泣かせ」の一品。だが西岡のこの一貫は、まったく包丁を入れていないにもかかわらず、柔らかさの中に見事な弾力があり、甘みも驚くほど高い。これほど素材そのものの質が良いイカを前回食べたのは、佐渡島の港でのことだった。

    続いて小さなイカの足が一つ。これがまた、嬉しくなるほど心地よい歯切れの良さだった。

    白星笛鯛は暖流性の魚で市場流通量が極めて少なく、産地を離れればまず出会えない珍客だが、これも味わうことができた。

    口に入れた瞬間はまず水気を帯びた歯切れの良さ、歯が厚みのある身に触れるとゆっくりと柔らかくなり、脂の中から層になって甘みが溢れ出す。

    おや!ほのかにミルクのような香りまである。

    琵琶鱒も見事で、香り豊かで身は柔らかく、味わいは純粋そのもの。仙崎の背トロは夏のマグロの一部として、ほとんど抵抗を感じないほど柔らかく、海藻の香りがほのかに漂う、極めて個性的な表現だった。

    鯵は美しい2枚が重ねられ、大胆な構成。歯切れと甘みがともに見事で、香りは豊かに広がりながらも口の中ですっと引き、味付けは薄いのに生臭さの痕跡は一切ない。

    鰆の二貫は、背と腹の身が巧みに重ねられていて、極めて穏やかな柔らかさと、集中した甘み、そしてはっきりとしたミルクのような香りが感じられた。

    西岡は白身魚それぞれが持つ異なる「柔らかさ」と「鮮やかな甘み」を、板前で客にはっきりと示してみせる。

    太刀魚は本当に見事だった。

    炙られた状態だけでもう食欲をそそられ、握りにする際には小さな海苔を一枚挟み込むことで、旨味を立体的に表現しつつ、身の柔らかさもより際立たせている。ほとんど口の中で溶けてしまうような感覚でありながら、鮮度、甘み、脂の濃密さは非常に高い。

    良い魚であることはもちろん、それを見抜く目利きとの出会いも必要だ。

    最後は利尻の紫ウニで締めくくり。みょうばんの処理を施していないため見た目はやや乱れているが、味わいにおいては雑味のないミネラル感と甘みをしっかりと示していた。

    この一食は、まさに純粋な「人脈」、「仕入れ力」、「魚の実力」そのものだった。

    どの魚をどの漁師が朝何時に処理し、今日の何時に店に届き、何時に板前で仕込んだか——そうした詳細な情報を、落ち着いた口調でよどみなく語れる店というのは、確かに独特の魅力がある。

    他の大将たちが客を満足させることに重きを置いているとすれば、西岡はむしろ魚そのものと港の魚商人たちを納得させることに重きを置いているように感じる。魚の質と鮮度へのそうしたこだわりが、東京において頑固でありながら特別な資源を持つ、唯一無二の寿司店を確かに作り上げている。

    この一食に明確な難点を挙げるとすれば、味の方向性がやや均一だったことだろう。

    白身魚はもともと繊細で奥行きのある鮮度を持ち、じっくりと味わうべきものだが、ここでの味付けは非常にシンプル。十数種類もの魚が続くと、爆発的な衝撃を感じるのはなかなか難しい。

    伝統的な江戸前寿司——漬け、締め、煮、炙りと絶えず変化していくスタイル——に慣れている人にとっては、この一食はいささか刺激に欠けると感じるかもしれない。

    それでも個人的には、西岡での食事体験が本当に好きだ。東京でこれほど状態の良い白身魚に一度にこれだけ出会えることは珍しく、その幸福感は、港まで何度も新幹線で足を運ぶ手間を何度も省いてくれた。

    現在の予約は5〜7日前であれば取ることができる。

    もし本当に魚好きの方なら、今のうちにぜひ、とおすすめしたい。

    鮨 にし岡

    Dinner 18:30 –

    Sunday Lunch 12:30 –

    Omakase Course ¥33,000++

  • 『生食できる鶏肉』を看板にした焼き鳥店

    以前東京を訪れた際に、ある焼き鳥店『焼鳥 篠原』に連れて行ってもらった。

    レストランは名店ひしめく西麻布エリアにある。土曜の夜、20:30の2部を予約したが、5分前に到着してもすでに10人以上が店の外で待っていた。繁盛しているようで、満席だった。

    この店は希少な無菌鶏——『京都高坂鶏』を使うことで知られている。世界で唯一、安全かつ無菌で、1ヶ月熟成させても生食基準を満たせる鶏肉だという。クリーミーな食感が特徴で、紹介文ではマグロの大トロに匹敵するとまで形容されていた。

    高坂鶏の開発者である高坂英樹氏は、信頼するシェフにしかこの鶏肉を卸さないため非常に希少で、『幻の鶏』とも呼ばれている。

    レストランの公式サイトでは、自らを『焼き鳥懐石』、コース制と位置づけている。刺身と紀州備長炭で焼き上げる焼き鳥を中心に、高坂鶏を使った様々な酒肴や釜飯も織り交ぜられ、価格は16,000円。

    ペアリングを追加すると、日本酒7種でこちらも16,000円だった。

    京都高坂鶏のワンタンスープ

    白和え|シャインマスカット、ブルーベリー

    着席後、まずワンタンの澄まし汁が運ばれてきた。美味しい肉の鶏が、必ずしもスープに向いているとは限らない。味わいはかなり薄く、ワンタンの皮もやや厚めだった。

    しかし続いて出てきた小さな白和えは嬉しい驚きだった。果物の澄んだ甘さが実に心地よく、豆腐のミルキーさとほのかな甘みに、少しガーゼのような食感が重なり、全体として明るくバランスの取れた一皿だった。

    高坂鶏の刺身

    鶏肉の刺身盛り合わせには、砂肝、レバー、もも肉、むね肉が用意されていた。後者の2つはさておき、生食できる鶏の内臓を見たのはこれが初めてだった。

    砂肝は深い赤色をしていながらも、端の方には隠しきれない鮮やかさがあり、記憶に残るコリッとした食感だった。レバーは見るからにピンク色で、表面の処理も清潔感があり、ごま油と合わせることで繊細さがより際立っていた。

    どちらの内臓も非常に印象的で、鶏肉の品質の高さを一撃で証明していた。

    もも肉は可もなく不可もなくといった印象だったが、意外だったのはむね肉。筋繊維がもっとはっきりしているかと思いきや、締まっていながらもふんわりとした綿のような食感だった。

    もも肉のタルタル、醤油漬けのほおずき

    牛肉タルタルの定番の組み合わせをアレンジし、卵黄もジューシーなほおずきにアップグレードしている。だが期待していた組み合わせの割に、食べてみるとあまり印象に残らなかった。

    焼き鳥|肩

    焼き鳥は鶏の肩肉から始まった。炭の香りと脂のバランスが非常によく、薄い皮は文句なしのパリッと感、肉汁は口の中で弾けるようだった。

    一気に、美味しい焼き物への欲求が呼び起こされた。

    2年雪下熟成じゃがいも

    じゃがいものホクホク感とさつまいものようなほのかな甘みを併せ持ち、口に入れると、最後にごくわずかに発酵の酸味が香った。地味に見えて、まったく普通ではない小さなじゃがいもだった。

    飛露喜の特別純米が合わせられ、スパイスのような香りが引き立ってなかなか面白かった。

    茶碗蒸し

    茶碗蒸しの卵は東京の北、埼玉県の田中農場から。『郊外の農園の大きなスイカを使っています』というのと似たようなコンセプトだ。

    ただここで触れておきたいのは、篠原シェフが実際に生産者のもとへ足を運び、自らの目で食材の生産と品質を確認することを大切にしている点だ。

    良質なチーズを求めて北海道まで、良質なハーブを求めて広島の『梶谷農園』まで訪れたこともあるという。生産者と直接コミュニケーションを取ることで、食材本来の個性をより良く引き出している。

    茶碗蒸しの表面はなめらかでつややか、シンプルで清潔感があり、見るからに食欲をそそる。食べてみると香ばしく柔らかいだけでなく、ほのかにミルキーな風味も感じられた。

    最後の一さじをすくうと、器の底に隠れたモッツァレラが現れた。小さな一杯の茶碗蒸しに、一口ごとに細やかな心遣いが込められていた。

    焼き鳥|赤身

    焼き鳥|むね肉

    焼き鳥|ちょうちん

    茶碗蒸しの後、ようやく焼き鳥の本編が始まった。

    赤身はもも肉の内側の、取れる量が少ない部位で、肩肉よりも締まった食感。むね肉はほんのりピンク色で、わさびを添えると肉の柔らかさが際立った。

    ちょうちんは本当に美しかった。外側はほんのり火が入り、中は完璧なとろけ感、濃厚でコクがあった。

    焼き鳥|せせり(鶏尾)

    焼き鳥|はつ(心臓)

    焼き鳥|砂肝

    続く3品、せせりは一口でパリッと、脂の香りが口いっぱいに広がり、はつは炭火の香りをより際立たせ、砂肝は噛むと音が聞こえるほどコリコリだった。

    篠原の焼き鳥の塩使いは本当に控えめで、わさびとおろし生姜を交互に合わせることで、肉の食感と風味をちょうど良く引き立てていた。

    鶏レバーペースト、くるみパン

    湯葉、ブルーチーズ、はちみつ

    鶏のタタキ

    焼き鳥の合間には、何品かの料理も挟まれていた。

    鶏レバーペーストはミルキーさと繊細さが満点で、後味にはほのかな甘みも残った。炙ったブルーチーズはとろりとした状態で実に魅力的、はちみつとの組み合わせも定番だが、チーズの質が一皿全体の足を引っ張ってしまっていた。もも肉とむね肉を合わせたタタキは、中心の生に近い部分がほんのりピンク色で、極めて柔らかく、酒に合う一品だった。

    手羽先

    小さな焼き鳥店でLVのコースターを使っているだけでもかなり大げさだと思っていたが、なんとスタッフが今度はLVの小さな箱を抱えて登場。中には次の手羽先のために用意された黒い手袋が入っていた。

    酒肴の出来にはやや波があったものの、篠原の塩焼き焼き鳥のレベルは常に安定していたと言わざるを得ない。手羽の端はこんがりと焦げ目がつき、皮下の脂は油としてじゅわっと溶け出し、肉の柔らかさもちょうど良かった。

    これはまさに夢にまで見た完璧な手羽先だった。

    春巻き

    つくね

    春巻きは大きく失敗していた。揚げた後の硬さは、まるで冷凍のワンタンの皮を使ったかのようだった。

    一方、つくねは少し嬉しい驚きだった。丸い形が皿の上でちょこんと立っている様子が可愛らしい。かじって中心まで到達すると、肉はまだほんのりピンク色の状態だった。

    ほどよい塩加減が炭火の香りと脂をうまくバランスさせていて、満足感があった。

    軟骨

    食道

    せせり(首肉)

    せっかく訪れた店だったので、追加で3部位の焼き鳥を注文した。食道のコリコリとした食感が実に見事だった。

    焼き鳥を食べている間、副料理長が大きな土鍋を抱え、いつもの人懐っこい笑顔でその夜の釜飯を客に披露してくれた。

    釜飯

    鶏ガラそば

    主食は2品。釜飯は鶏肉に旬のししとうを合わせ、バターコーンで香りを添えていた。具材は豊富だったが、味わいはそれほど魅力的ではなかった。

    むしろ印象に残ったのは鶏ガラそば。冒頭のワンタンスープとちょうど呼応するような鶏の出汁で、表面にはうっすらと油が浮き、明らかに香りが引き立っていた。麺はやや硬めに茹でられており、一杯食べ終えると、ちょうど良い満足感が残った。

    食事全体を通して、流れるようにスムーズな体験だった。

    どの料理にもシェフの技術と心遣いが感じられ、焼き鳥の火入れも満足のいくものだった。カウンターの客の多くは常連らしく、7種のペアリングも決して手を抜いておらず、確かにコストパフォーマンスは良かった。

    今のところ予約はまだ比較的取りやすく、また来たいと思わせる店だった。

    焼鳥 篠原

    〒106-0031 東京都港区西麻布1丁目4−40 西麻布篠ビル 1F

    17:30〜20:00/20:30〜23:00

    www.yakitori-shinohara.com

    Omakase ¥16,000

    Pairing ¥16,000