• 『生食できる鶏肉』を看板にした焼き鳥店

    以前東京を訪れた際に、ある焼き鳥店『焼鳥 篠原』に連れて行ってもらった。

    レストランは名店ひしめく西麻布エリアにある。土曜の夜、20:30の2部を予約したが、5分前に到着してもすでに10人以上が店の外で待っていた。繁盛しているようで、満席だった。

    この店は希少な無菌鶏——『京都高坂鶏』を使うことで知られている。世界で唯一、安全かつ無菌で、1ヶ月熟成させても生食基準を満たせる鶏肉だという。クリーミーな食感が特徴で、紹介文ではマグロの大トロに匹敵するとまで形容されていた。

    高坂鶏の開発者である高坂英樹氏は、信頼するシェフにしかこの鶏肉を卸さないため非常に希少で、『幻の鶏』とも呼ばれている。

    レストランの公式サイトでは、自らを『焼き鳥懐石』、コース制と位置づけている。刺身と紀州備長炭で焼き上げる焼き鳥を中心に、高坂鶏を使った様々な酒肴や釜飯も織り交ぜられ、価格は16,000円。

    ペアリングを追加すると、日本酒7種でこちらも16,000円だった。

    京都高坂鶏のワンタンスープ

    白和え|シャインマスカット、ブルーベリー

    着席後、まずワンタンの澄まし汁が運ばれてきた。美味しい肉の鶏が、必ずしもスープに向いているとは限らない。味わいはかなり薄く、ワンタンの皮もやや厚めだった。

    しかし続いて出てきた小さな白和えは嬉しい驚きだった。果物の澄んだ甘さが実に心地よく、豆腐のミルキーさとほのかな甘みに、少しガーゼのような食感が重なり、全体として明るくバランスの取れた一皿だった。

    高坂鶏の刺身

    鶏肉の刺身盛り合わせには、砂肝、レバー、もも肉、むね肉が用意されていた。後者の2つはさておき、生食できる鶏の内臓を見たのはこれが初めてだった。

    砂肝は深い赤色をしていながらも、端の方には隠しきれない鮮やかさがあり、記憶に残るコリッとした食感だった。レバーは見るからにピンク色で、表面の処理も清潔感があり、ごま油と合わせることで繊細さがより際立っていた。

    どちらの内臓も非常に印象的で、鶏肉の品質の高さを一撃で証明していた。

    もも肉は可もなく不可もなくといった印象だったが、意外だったのはむね肉。筋繊維がもっとはっきりしているかと思いきや、締まっていながらもふんわりとした綿のような食感だった。

    もも肉のタルタル、醤油漬けのほおずき

    牛肉タルタルの定番の組み合わせをアレンジし、卵黄もジューシーなほおずきにアップグレードしている。だが期待していた組み合わせの割に、食べてみるとあまり印象に残らなかった。

    焼き鳥|肩

    焼き鳥は鶏の肩肉から始まった。炭の香りと脂のバランスが非常によく、薄い皮は文句なしのパリッと感、肉汁は口の中で弾けるようだった。

    一気に、美味しい焼き物への欲求が呼び起こされた。

    2年雪下熟成じゃがいも

    じゃがいものホクホク感とさつまいものようなほのかな甘みを併せ持ち、口に入れると、最後にごくわずかに発酵の酸味が香った。地味に見えて、まったく普通ではない小さなじゃがいもだった。

    飛露喜の特別純米が合わせられ、スパイスのような香りが引き立ってなかなか面白かった。

    茶碗蒸し

    茶碗蒸しの卵は東京の北、埼玉県の田中農場から。『郊外の農園の大きなスイカを使っています』というのと似たようなコンセプトだ。

    ただここで触れておきたいのは、篠原シェフが実際に生産者のもとへ足を運び、自らの目で食材の生産と品質を確認することを大切にしている点だ。

    良質なチーズを求めて北海道まで、良質なハーブを求めて広島の『梶谷農園』まで訪れたこともあるという。生産者と直接コミュニケーションを取ることで、食材本来の個性をより良く引き出している。

    茶碗蒸しの表面はなめらかでつややか、シンプルで清潔感があり、見るからに食欲をそそる。食べてみると香ばしく柔らかいだけでなく、ほのかにミルキーな風味も感じられた。

    最後の一さじをすくうと、器の底に隠れたモッツァレラが現れた。小さな一杯の茶碗蒸しに、一口ごとに細やかな心遣いが込められていた。

    焼き鳥|赤身

    焼き鳥|むね肉

    焼き鳥|ちょうちん

    茶碗蒸しの後、ようやく焼き鳥の本編が始まった。

    赤身はもも肉の内側の、取れる量が少ない部位で、肩肉よりも締まった食感。むね肉はほんのりピンク色で、わさびを添えると肉の柔らかさが際立った。

    ちょうちんは本当に美しかった。外側はほんのり火が入り、中は完璧なとろけ感、濃厚でコクがあった。

    焼き鳥|せせり(鶏尾)

    焼き鳥|はつ(心臓)

    焼き鳥|砂肝

    続く3品、せせりは一口でパリッと、脂の香りが口いっぱいに広がり、はつは炭火の香りをより際立たせ、砂肝は噛むと音が聞こえるほどコリコリだった。

    篠原の焼き鳥の塩使いは本当に控えめで、わさびとおろし生姜を交互に合わせることで、肉の食感と風味をちょうど良く引き立てていた。

    鶏レバーペースト、くるみパン

    湯葉、ブルーチーズ、はちみつ

    鶏のタタキ

    焼き鳥の合間には、何品かの料理も挟まれていた。

    鶏レバーペーストはミルキーさと繊細さが満点で、後味にはほのかな甘みも残った。炙ったブルーチーズはとろりとした状態で実に魅力的、はちみつとの組み合わせも定番だが、チーズの質が一皿全体の足を引っ張ってしまっていた。もも肉とむね肉を合わせたタタキは、中心の生に近い部分がほんのりピンク色で、極めて柔らかく、酒に合う一品だった。

    手羽先

    小さな焼き鳥店でLVのコースターを使っているだけでもかなり大げさだと思っていたが、なんとスタッフが今度はLVの小さな箱を抱えて登場。中には次の手羽先のために用意された黒い手袋が入っていた。

    酒肴の出来にはやや波があったものの、篠原の塩焼き焼き鳥のレベルは常に安定していたと言わざるを得ない。手羽の端はこんがりと焦げ目がつき、皮下の脂は油としてじゅわっと溶け出し、肉の柔らかさもちょうど良かった。

    これはまさに夢にまで見た完璧な手羽先だった。

    春巻き

    つくね

    春巻きは大きく失敗していた。揚げた後の硬さは、まるで冷凍のワンタンの皮を使ったかのようだった。

    一方、つくねは少し嬉しい驚きだった。丸い形が皿の上でちょこんと立っている様子が可愛らしい。かじって中心まで到達すると、肉はまだほんのりピンク色の状態だった。

    ほどよい塩加減が炭火の香りと脂をうまくバランスさせていて、満足感があった。

    軟骨

    食道

    せせり(首肉)

    せっかく訪れた店だったので、追加で3部位の焼き鳥を注文した。食道のコリコリとした食感が実に見事だった。

    焼き鳥を食べている間、副料理長が大きな土鍋を抱え、いつもの人懐っこい笑顔でその夜の釜飯を客に披露してくれた。

    釜飯

    鶏ガラそば

    主食は2品。釜飯は鶏肉に旬のししとうを合わせ、バターコーンで香りを添えていた。具材は豊富だったが、味わいはそれほど魅力的ではなかった。

    むしろ印象に残ったのは鶏ガラそば。冒頭のワンタンスープとちょうど呼応するような鶏の出汁で、表面にはうっすらと油が浮き、明らかに香りが引き立っていた。麺はやや硬めに茹でられており、一杯食べ終えると、ちょうど良い満足感が残った。

    食事全体を通して、流れるようにスムーズな体験だった。

    どの料理にもシェフの技術と心遣いが感じられ、焼き鳥の火入れも満足のいくものだった。カウンターの客の多くは常連らしく、7種のペアリングも決して手を抜いておらず、確かにコストパフォーマンスは良かった。

    今のところ予約はまだ比較的取りやすく、また来たいと思わせる店だった。

    焼鳥 篠原

    〒106-0031 東京都港区西麻布1丁目4−40 西麻布篠ビル 1F

    17:30〜20:00/20:30〜23:00

    www.yakitori-shinohara.com

    Omakase ¥16,000

    Pairing ¥16,000

  • Sugita|日本一の寿司と、その弟子たち

    ついに、ついに、ついに、ついに、ついに——日本のTabelogで全国1位の高得点を誇る寿司店、東京はおろか世界でも屈指の予約困難店、日本橋蛎殻町 すぎたの予約が取れた。主厨の杉田孝明氏は、現代日本を代表する最高峰の江戸前寿司職人と称される。

    さらに3日連続で、一番弟子の店である鮨はしもと、後輩弟子が開いて瞬く間に話題になった鮨陸を訪れ、以前に行ったことのある鮨処やまとも合わせると、東京にあるSugita系譜の店をすべて制覇したことになる。

    杉田さんのSNSでは、この一枚の写真をよく見かける。弟子や孫弟子たちが写っていて、今ではみな独立し、一軒の店を任せられるほどの名手になっている。

    左から順に、山本英次郎(福寿司)、戸田陸(鮨陸)、橋本裕幸(鮨はしもと)、杉田孝明(すぎた)、安井大和(鮨処やまと)、野口和暉(枯淡)、佐々悠樹(日本料理佐々)。

    鰯巻|日本橋蛎殻町 すぎた

    江戸前寿司の完璧な体現、熟成技術の応用、風味における絶対的なバランス感覚、そして居心地の良さこの上ないカウンターでの接客。

    美辞麗句はもう十分だろう。この記事では記録的な形でお伝えしたい。横並びで比較したとき、このSugita系譜の名店群の中で、数ヶ月前からの予約に値するのはどこか、そして6,000元にも上る「転売席料」を払う価値があるのはどこか。

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    日本橋蛎殻町 すぎた

    Tabelog金賞店🏅東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目33-6 44,000円++

    12時のランチ、11時55分にはすでにカウンター8名の客全員がドアの前で待機していた。着席して簡単に挨拶を交わすと、カウンターは再び静まり返り、誰もが背筋を伸ばして座り、どこか緊張感を漂わせながら、息を潜めてこの一食を待ちわびているようだった。

    この静寂を破ったのは、意外にもイワシを捌いていた杉田さん本人だった。

    「みんなに静かに見つめられながら骨を抜くの、けっこう緊張しますね(小声)……みんなに静かに見つめられながら骨を抜くの、本当にめちゃくちゃ緊張します……(さらに小声)」

    空豆

    イカ 平目

    千葉県産クエ

    鰯巻

    軽やかな幕開け。空豆には発酵させたようなほのかな納豆の香りがあり、柔らかな塩気と旨みがじんわりと染み出す。刺身にはイカと平目が用意され、後者は噛むほどに十分な風味を見せた。

    クエは食卓に出た瞬間からとにかく香りが良い。目に見えて透き通る白身に、脂が均一に入り込んでいて、半生の食感が脂の旨みと甘みを無限に増幅させていた。

    鰯巻は国内の寿司店でもすっかり定番になっているが、これを生み出したのは他ならぬsugitaだ。オリジナルを食べて初めて、これほどまでに強烈な美味しさと細く長い余韻を両立できるものなのだと知った。

    同じイワシ、ねぎ、生姜、紫蘇の組み合わせでも、杉田さんは「わさびは多めに、醤油は少なめで」と念押しする。魚はふっくらとした脂の中にわずかな歯切れを残し、生姜の甘みと青々とした香りが先に立ち、旨みが小さな波のように口の中に広がったあと、最後に舌先へと収束し、長く集中した余韻を残していく。

    鰯巻はこれまで弟子たちの店のものも含めて散々食べてきたが、今回は認識を完全に塗り替えられた。やはり同じレシピでも、料理の魂が宿っているかどうかはまったく別次元の話らしい。

    あん肝 牡蠣

    マグロの串焼き

    追加|味噌漬け数の子

    追加|北寄貝の生姜醤油焼き

    鰯巻を食べ終えて顔を上げると、いつの間にか1時を回っていた。その後の酒の肴の組み合わせ、マグロの串、そして追加分を合わせると、酒肴のパートだけで丸2時間かかっていた。

    杉田さんが慌てず次に使う魚を仕込んでいく様子を見ていた。動きは滑らかで淀みなく、ほとんど止まることがなく、無駄な動作も一つも見当たらない。その熟練ぶりと自然な余裕は、まるで映画のために事前に稽古されたワンシーンのようだった。

    センターの席に座る常連客はすっかりリラックスした様子で、自分から杉田さんに近況を話し始めていた。杉田さんも軽やかに会話に応じ、時折カウンターの他の客や、後ろにピンと立つ弟子たちにもちょっかいを出す。距離感もユーモアの塩梅も、ちょうどよかった。

    二皿の強い印象を残す料理のあと、食事全体は穏やかな休憩期に入った。お酒のお供の小皿には陽乃鳥が合わされ、漬け汁の甘みとよく調和していた。しかし炭火で焼いたマグロの串は中温くらいの温度で出てきて、脂っこさが過剰で、ツナ缶と区別しづらいような風味にはやや戸惑いを覚えた。

    Sugitaの酒肴の追加ラインナップは幅広く、全部を追加して二皿目のコースを開くかのような客をよく見かける。自分の胃袋の限界をわきまえている人間は、数の子漬けと北寄貝だけを選んだが、噛むとコリコリと癖になる美味しさだった。

    小肌 やりいか ハタ 鯛 鰆 春子鯛 赤身 中トロ 青柳 赤貝 車海老 馬糞ウニ 穴子 玉子焼き

    Sugita系の寿司はどこも小肌から始まる。強めに〆た力強い風味で、舎利が一貫全体を柔らかく包み込み、余韻には明確で細く長い旨みが残る。

    この日の白身四貫は、食事全体の中でもまた一つ強く印象に残るポイントだったと言っていい。白身魚らしい柔らかさを持ちながら、仕込みの工夫でそれぞれの一貫の体験に差をつけていた。

    ハタは風味がしっかりとしていて、噛み応えのある食感がより多くの魚の味わいを引き出す。鯛は脂が十分にのっていて、食べるとすっきりとした爽快感が一段増し、後味の甘みもより明確だ。鰆は熟成によってほとんどとろけるような食感になり、同時に繊細ながら表現力のある燻香を纏う。そして春子鯛にはレモンが添えられ、柔らかな食感の中に魚の味わいがしっかりと感じられた。

    続く車海老、馬糞ウニ、穴子も然り。寿司の世界ではおなじみのベテラン勢だが、杉田さんの手にかかると独特の落ち着きとしなやかさを見せ、まるで新たな命を吹き込まれたかのようだった。

    杉田さんの寿司の表現は、優雅さの奥に確かな実力を秘めている。寿司のバランス感覚をほぼ極限まで突き詰めながら、直線的で長く続く余韻で締めくくり、想像の余地を十分に残してくれる。

    食事はまるまる4時間、カウンターでの体験も終始素晴らしかった。杉田さんが寿司を握る姿を眺めているだけでも十分楽しい。動作の一つひとつが優雅で滑らかだった。うーん、どこか色気すら感じるほどに。

    会話の中にもユーモアがたっぷりで、カウンターの客一人ひとりにさりげなくちょっかいを出しつつ、その塩梅も絶妙だった。

    帰り際、杉田さん自身も「4時間のランチをやったのは久しぶりだ」と語っていた。客の立場から見れば、これはもはや食事というより没入型のパフォーマンスに参加しているようなもので、視覚、味覚、感情の複数の側面から揺さぶられ、唯一無二の感覚体験を形作っていた。

    日本一、確かに期待を裏切らなかった。

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    鮨はしもと

    Tabelog銀賞店🥈東京都中央区新富1-8-2 grandir ginza east 1F 36,300円++

    北寄貝出汁 菜の花 小鮎

    青柳 帆立貝 平目

    すっぽんの茶碗蒸し 餅

    橋本の思い出をまとめるなら:落ち着いている、控えめ、完成度が高い、量が多い。

    橋本さん自身も寿司の家系の出身で、高校卒業後にSugitaで9年間修業を積み、2014年に独立して鮨はしもとを開いた。今年で開業11年目を迎える。冒頭の集合写真に写っていた枯淡の主厨・野口和暉氏も、彼の弟子にあたる。

    板前を笑いの渦に巻き込むSugitaに比べると、橋本さんはどちらかというと優しく口数の少ない大将という印象だ。魚を真剣に扱い、寿司を握るその手つきは、清潔感があり手際よく、流れるようだった。

    虎河豚の白子 舎利 卵黄醤油

    子持ちイカ

    鰯巻

    あんこう 牡蠣 からすみ 甘エビ

    太刀魚の塩焼き

    料理の表現としては、橋本さんはより「実直」な印象がある。量も実直、食材本来の味を実直に引き出す。酒肴からもわかるように、Sugita系譜の出身とはいえ、橋本さんには自分なりの料理へのスタンスがある。

    北寄貝と菜の花の出汁から始まり、季節感の明確さが光る。刺身には特大の帆立貝が出され、青柳と平目も添えられ、甘みが存分に感じられた。すっぽんの茶碗蒸しには小さな餅が加えられ、日本人が好むどろどろとした食感に構造感をプラスしていた。

    続く虎河豚の白子と子持ちイカは、ちょうど季節の変わり目に位置する二つの食材の交代を体現していた。前者は炭の香りがしっかりと効いていて、舎利に崩すとその存在感が際立つ。後者は70度のお湯で半生に仕立てられ、卵の柔らかさが鮮度をより良く表現していた。

    酒の肴の部分はすべて柔らかい食感の食材が選ばれていた。味噌牡蠣は甘みの奥にしっかりとしたミネラル感が隠れていて、からすみと甘エビの組み合わせは両者の甘みと食感を結びつけ、口の中に残るミルキーな風味がなんとも愛らしかった。

    小肌 ハタ 中トロ 赤貝 赤身 蛇腹 やりいか 煮蛤 小さな縞鯵 車海老 鰆 馬糞ウニ 星鰻 玉子

    鰯巻にせよ小肌にせよ、酒肴パートと寿司パートでそれぞれ期待していた二枚看板は、この日の橋本ではどちらも少し物足りなく、わずかにバランスを欠いていた。小肌の下にはエビのでんぶが仕込まれているとのことだったが、魚と舎利に完全に埋もれてしまっていた。

    しかし白身、マグロ、貝類にはそれぞれ光る点があり、下がりかけた期待を見事に立て直してくれた。ハタは噛み応えで魚の風味をより長く引き出し、鰆は師匠と同じく熟成を選んでいて、柔らかさと燻香で口いっぱいに広がる。マグロは中トロ・赤身・大トロと続き、一尾の魚が持つ柔らかさ、酸味の高さ、筋の存在感、風味という複数の側面を見せてくれた。さらに意外にもハーブのような香りを纏う赤貝、旨みと甘みを極限まで引き出した煮蛤もあった。

    全体として見ると、橋本の寿司はやはり実直な江戸前スタイルだ。舎利はsugitaほどの透明感はないが、脇役としての立ち位置をきちんと自覚している。一貫ごとの特徴はより明確でありながら、決して主張しすぎない——控えめであることの美しさがそこにはある。

    大将は口数こそ少ないが、仕事は手際よくきびきびとしている(しかも顔立ちも穏やかだ)。カウンターの人手も多くペースが速いので、食べながらそのリズムを眺めているのもなかなか心地よかった。

    橋本の日本酒のラインナップはSugitaよりも明らかに幅広く、そのため夜、特に時間に余裕のある二部制の回はより快適だろう。

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    鮨陸

    東京都渋谷区広尾5-13-6 ARISTO広尾ビル 1F 32,000円++

    小肌の出汁

    大葉 紫萼

    甘鯛 帆立貝

    鮨陸は昨年オープンしたばかりだが、おそらく中国資本が背後にあるためか、小紅書(RED)で一気にバズった。

    戸田陸氏は杉田さんの下で6年間修業したのち、タイに渡って自身の店・鮨いちづを開き、Opinionated About Diningでアジア最高の日本料理店に選ばれ、「日本国外アジア最高の寿司」の称号を得ている。この経歴を知ると、この一食への期待も自然と膨らんだ。

    他の兄弟弟子たちのきっちりとした装いとは違い、陸さんは「反骨」な黒シャツを選び、サービスチームも綺麗な黒スーツで統一されていて、カウンターの雰囲気もより肩の力が抜けている。隅に隠れていたドナルドダックのコップは、なかなかの目立ちたがり屋だった。

    鰯巻

    金目鯛の水炊き

    ズワイガニ

    あん肝 帆立貝 からすみ

    ふかひれの唐揚げ

    酒肴を見るだけでも、陸さんのやり方は明らかにフュージョン料理寄りで、調理法にせよ食材にせよ伝統派からの逸脱が見られる。その中には効果的な革新もあれば、よくわからない失敗もあった。

    看板の酥炸鱼翅(ふかひれの唐揚げ)には、どこか恐ろしいほどの暴力的な美しさがあるが、サクサクの衣に包まれたぷりぷりとした弾力が極めて香ばしいことは否定できない。

    しかし水炊きの金目鯛——この奇妙な調理法を最後に食べたのはDVでのことだった。せっかくの良い魚なのに、焼けば脂も乗って香ばしいはずなのに、なぜわざわざスープに浸して硬い塊肉にしてしまうのか。

    伝統的な酒肴の部分は、食材にはお金がかかっているが、料理後の仕上がりはまさに両極端だった。刺身の帆立貝は小ぶりながら甘みが凝縮されている。鰯巻の紫蘇の香りは美しく、鮮度も抜群だった。一方でズワイガニは完全に方向性を誤り、肉は硬く、大きな殻の破片まで混じっていた。からすみと平貝も、これといった印象を残さなかった。

    小肌 平目 カワハギ 虎河豚の白子 中トロ 赤身 サヨリ 春子鯛 赤貝 車海老 子持ちイカ ウニ 星鰻 玉子 いちご

    寿司の部分は、魚そのものの風味でより印象を残していた。

    Sugita系の恒例である開幕の小肌は、〆時間が短くちょうどいい歯切れの良さで、すっきりとした印象を与える。サヨリは脂の乗りが美しく、春子鯛は極上の柔らかさでハイライトを刻んでいた。

    その日はちょうど新しいマグロが入荷したタイミングで、陸さんは中トロと赤身を選んでいた。魚の風味とちょうどよい脂の乗りは、実に食欲をそそる。平目、カワハギ、虎河豚の白子、車海老、ウニもすべて水準以上で、途中一、二貫は物足りなさもあったが、食事全体の体験には大きな影響はなかった。

    食事全体を通して見ると、パフォーマンスは価格に見合うものだった。カウンターの雰囲気はリラックスしていて、スタイルはやや新派で国際的、植物性の香りの使い方も巧みだった。

    師匠のような優雅さでも橋本のような控えめさでもなく、陸さんは食材と食感をよりストレートに表現するタイプだ。簡単に言えば、庶民的で味が濃いめということだ。

    カウンターのサービスに関して言えば、スーツはやや表面的な取り繕いに感じられた。週に二日だけ研修に来るソムリエを除けば、他のサービススタッフは正直バラバラだった。厨房で研修中のNOMA出身の青年も目を引いたが、酒肴をきっちりやらかしてくれた。

    結局のところ、小肌と鰯巻を除けば、もうSugitaとはあまり関係がないと言っていいのかもしれない。

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    鮨処やまと

    Tabelog銅賞店🥉東京都中央区築地3-7-2 第五銀座ウェスト築地ビル 1F 24,200円++

    最後のやまとは、実は半年ほど前に訪れていた店だ。価格も三軒の中では一番手頃だ。

    大和さんも寿司の家系の出身だが、杉田さんの他の弟子と違い、まず銀座小十で修業を積んでから杉田さんの門下に入っている。時系列で見ると、橋本さんの後を継いでSugitaの二番手を務め、陸さんとも2年ほど一緒に働いていたようだ。

    特筆すべきは、やまとの暖簾には日本橋蛎殻町すぎたの師弟のしるしが見て取れることだ。

    カマス カンパチ 鰹 海苔の茶碗蒸し 穴子ときゅうりの和え物 やりいかの酒煮 京焼き 鰹の炙り(写真なし)

    やまとの酒肴は、より個人的な色合いが濃い。

    海苔の茶碗蒸しは、旨みと甘み、柔らかさが一つに溶け合っていた。

    穴子ときゅうりの和え物は、非常に記憶に残る酒肴だった。穴子は全体が香ばしくパリッと焼き上げられ、きゅうりが爽やかな酸味をもたらし、少量の干物が風味に深みを加えていた。

    美味しさで殴られるような衝撃はないが、「とにかく香ばしい」と記憶に残る小料理たちだった。

    小肌 やりいか 鰹 小いわし 島えび 赤身 大トロ 小さな縞鯵 鰆 車海老 ウニ ミルガイ(追加) 穴子 玉子

    その日は鰯巻こそ食べられなかったが、寿司は系譜の伝統である小肌から始まり、小いわしの握りも見事だった。生姜の一片が加わることで、酸味・塩気・旨みの中に甘みが一つ増えていた。

    やまとの寿司には、あの自然とスポットライトを浴びるような華やかさはないかもしれないが、価格の差があっても魚の質全体が落ちることはなかった。舎利は味が濃く粒感も強いが、一部の魚との一体感はやや弱かった。

    その日のカウンターはリラックスした雰囲気だった。大和さんは客に積極的に話しかけるタイプではないが、ぽつりぽつりと言葉を交わしてくれ、2時間のランチのペース配分もちょうどよかった。

    とはいえ、彼の機嫌が悪い日に当たった人の話も聞いたことがある。まるで鞭で追われるように1時間で食事を終わらせられ、慌ただしく会計を済ませることになったそうだ。

    東京にあるSugita系譜の店の中では、コストパフォーマンスが一番高いと言えるだろう。縁があればまた訪れたいし、その日は大和さんの機嫌が良いことを願う。

    板前の料理は、その場にいる客全体の雰囲気によって形作られるものなので、一度の直接体験だけでは、その店の実力を完全に代表しているとは言えないかもしれない。この記録も、現時点での寿司に対する理解に基づいて綴ったものにすぎない。だからこそ今回は、あえて「日記」に近いスタイルで皆さんと共有することにした。もしかしたら1年後、同じ店を再訪すれば、まったく違う印象を抱くかもしれない。

    Sugitaと二人の弟子の店をまとめて予約してくれた家族に感謝したい。3日連続の行程に組み込まれ、印象深い瞬間がぎっしり詰まった旅になった。個人的には、記録に残す価値のある比較だったと思う。

    とはいえ、3日連続は正直ちょっとした労働災害だった。少し休ませてもらうけれど、まだまだ戦える。

  • Sézanne|日本の食材によるフレンチの表現、東京の「金融街」にある優雅な三つ星

    東京のレストランの中で、Sézanneは十分な存在感を持つ一軒だ。Asia’s 50 Best Restaurants 2024で1位、World’s 50 Best Restaurants 2025で7位。開業から4年、ミシュラン三つ星を2年連続で獲得している。

    シェフのダニエル・カルバート氏の経歴も際立っている。若くしてPer Seのスーシェフを務め、Belonを率いて星を獲得。2021年からSézanneでの道のりが始まり、開業初年度でミシュランの星を獲得した。

    一言で言えば、エリートコース出身の、フレンチの優等生だ。

    Sézanneは丸の内のフォーシーズンズホテルの中にあり、北京の金融街ウェスティンや上海浦東のマンダリンオリエンタルのような立ち位置だ。窓の外には整然と明るいオフィスの格子が広がり、華やかさの中にどこか働く人々の息苦しさが滲む。

    薄いシアーカーテンを引くと、まるで自動的に遮音されたかのように、そこはもう一つの優雅な世界になる。

    48ヶ月熟成コンテチーズのシュー

    穀物+コシヒカリ酵母パン

    北海道産帆立貝 わさび葉油 ホースラディッシュ

    着席後の一皿目は見た目こそ地味で、二つのチーズシューだった。薄い皮、とろける中身、香ばしさが弾ける——爽快で美味しく、シャンパンとの相性も抜群だった。

    北海道産帆立貝は温かいスープに仕立てられていて、見た目からしてピンクがかった透明感があり、火入れはほぼ完璧な柔らかさ。ミルクの風味が甘みと旨みを包み込み、ほんの少しのマスタードが上品にアクセントを添えていた。

    秋刀魚 キャラメリゼ玉ねぎ グリーンオリーブ

    旬の秋刀魚を使ったミニミルフィーユ。銀皮由来のインパクトある海の香りと、完璧な脂ののりが、この季節ならではの美味しさを物語る。玉ねぎの甘みが魚の脂を和らげ、少量のグリーンオリーブペーストが塩気と発酵のニュアンスを加えていた。

    一皿の中に、日本の旬の食材の良さと、複雑に重なる風味の層を同時に見せてくれる一品だった。

    あんこうの肝 中国醤油 黒酢

    厚岸産牡蠣 夕張メロンとじゅんさい

    あんこうの肝はタルトに仕立てられ、上には醤油と黒酢をジュレにしたものがのっていた。食感は豊かだったが、旨みが強い分、わずかな臭みは隠しきれていなかった。

    牡蠣とメロンの組み合わせは、字面だけ見るとやや邪道に思える。牡蠣の身はふっくらとしてミネラル感豊かで、薄切りのメロンが甘みとシャキシャキ感を引き立て、意外にも美味しかった。

    冷たい前菜がすべて出そろったところで、全体的に味は濃いめだったが、その振れ幅の中に驚きも多かった。

    キンキの皮パリパリ焼き サフラン

    温菜の始まりは、ほぼ完璧な仕上がりのキンキだった。

    皮のパリッと感は控えめに保たれ、ほんのりピンクがかった身を支えている。ソースは面白みがありながら主張しすぎず、サフランソースとあさりの出汁を合わせたもので、微かなスパイス感が旨みの存在感を高めていた。

    添えられた小さなじゃがいもも、ほくほくと美味しかった。

    スコットランド産ラングスティーヌ アンズタケ 香川県産グリーンピース

    続くラングスティーヌの仕上がりも好みだった。

    皿の中央にゆったりと横たわり、切ってみると中はまだほんのり透明感のある柔らかさ。殻でとったソースは予想通りの旨み爆弾で、そこに小さなグリーンピースの甘みが混じっていた。

    ここで少し前に戻って、先ほどのパンについて文句を言いたい。穀物+コシヒカリというコンセプトは魅力的だったが、外皮が硬すぎてちぎるのも一苦労で、せっかくのエビ殻ソースを一皿分無駄にしてしまった。

    トマトのタルト バジル ブラータチーズ

    トマトのタルトは、Sézanneの夏メニューの定番と言っていい一品だ。

    トマト、バジル、ブラータという赤・白・緑の定番の組み合わせを、野菜のタルトとして再構成した一皿。予想通りの調和がそこにあった。

    小さなトマトは味が濃く、甘みは強いが、酸味・塩気・爽やかさが層になって開いていき、最後にはむしろ口をさっぱりさせるような印象すらあった。ブラータチーズのミルキーな香りが各層を支え、バランスが良く、美味しく、まさに夏そのものの味わいだった。

    雲南省産松茸 銀杏 コシヒカリ

    透明な袋がテーブルサイドで切り開かれると、うま味の香りが一気にテーブル全体に広がった。

    盛り付けられてテーブルに置かれると、目の前にあったのはクリーミーなきのこスープ……いや、お茶漬け風?

    松茸の火入れはちょうどいい歯切れで、まだほんのりジューシーな状態。ソースの中の銀杏は柔らかく、ほのかな苦みが風味に一段深みを加えていた。強いて言えば惜しいのは、コシヒカリが柔らかすぎて粒感が崩れてしまい、結果として完全にお茶漬け的な印象になってしまったことだ。

    鴨のロースト 芽ねぎ チェリーの赤ワインソース

    メインは鴨のローストで、ニラと鴨もも肉のスープが添えられていた。

    鴨は丸ごと風干ししてから炭火で焼き上げていて、作り方は北京ダックにいくらか似ているが、火入れはピンク色のミディアムレアにとどめられている。

    それまでの魚介の皿に比べると、このメインは正直なところ平凡で、印象に残るものがなかった。鴨の皮は香ばしさに欠け、肉もどこか締まりすぎていて、ソースも存在感が薄く、鴨のスープも濃厚を通り越して脂っぽく、一気に胃にもたれてしまった。

    愛知県産いちじく ココナッツのグラニテ

    いちじくの葉 白味噌

    食事の途中で、テーブルサイドでサーベル(刀)を使ってボトルを開ける演出があった。Sézanneのワインリストには意外と手頃な価格帯のものも見つかり、中には生産者から直送されているボトルもあって、状態の良さもある程度担保されている。

    サービス面でもSézanneは、一般的な人が三つ星フレンチに抱くイメージを完全に満たしている。ワインサービスにせよ、料理の見せ方にせよ、テーブル上で起こるその他の細やかな所作にせよ、すべてが行き届いていて丁寧だった。

    コース全体を通して、多くの料理が日本の食材を主役に据えているのがわかるが、そこに世界各地の植物性食材を組み合わせることで、料理の複雑さとバランスを完成させている。

    世界の主要都市で経験を積んだイギリス人のフレンチシェフが、日本という土地で、ここの食材に対する自分なりの考えを持っていることが伝わってくる。

    驚きのある料理は前半に集中しがちだったが、それでも人の地雷を踏むような大きな失敗はなかった。

    一度は食べておきたい「東京のフレンチ」だ。記念日など特別な日に選べば、空間とサービスがその日をより一層ロマンチックなものにしてくれるかもしれない。

    次回はもう少しまともなパンに出会えることを願う。一緒に行った友人が食後の深夜に「また腹減った」とメッセージを送ってこないように。

    Sézanne

    水曜日〜土曜日

    12:00〜15:00

    水曜日〜日曜日

    18:00〜23:00

    https://www.sezanne.tokyo/

    MENU SÉZANNE 56,925円++

  • 山崎|美味しい料理と居心地の良い板前こそが王道

    東京のレストランの中で、西麻布の「山崎」は間違いなく訪れたいと思うwish listに入る一軒だ。

    31歳で独立開業し、開業からわずか3か月でミシュランの星を獲得した若きシェフ、山崎志朗氏は、東京の料理人の中でも際立って個性的で目を引く存在と言っていいだろう。数々の有名店とのコラボレーションも重ねており、今年上海で行われた頭灶とのコラボディナーも軒並み好評だった。

    山崎氏のすごさは、伝統的な料理と現代的な感覚をうまく融合させているところにある。食材本来の特徴を残しながら、そこに新しい風味や体験をひとつ加えてくる。優れた食材と的確な創意工夫に加え、居心地の良い接客スタイルと、お酒が進む板前——正直、好きにならずにはいられない。

    栗の渋皮煮の唐揚げ

    着席してすぐ、山崎さんが鰹節を削っている姿が目に入った。初秋に切り替わったばかりの新しいメニューでは、軽くとろみをつけただしに、揚げた渋皮煮の大きな栗を合わせていた。

    これはよく知られた、日本の秋を代表する伝統菓子と言っていい。栗の内側の渋皮を残したまま甘く煮たものだが、山崎氏はいつもと違い、それに衣をつけてもう一度揚げ、仕上げに刻んだ栗をかけている。

    蓋を開けた瞬間、栗の新鮮な香りがふわっと立ちのぼる。ふっくらとした大きな栗は甘みの中にほのかな苦みを帯び、だしに浸った衣は旨みをたっぷり吸い込んでいて、栗の柔らかさとは対照的な食感を生んでいた。

    香り高く、体が温まる——最初の一皿からすっかり心をつかまれた。

    伊勢海老と菊の酢の物

    定番メニューの伊勢海老は、秋のメニューでは酢漬けにした赤い菊と菊の葉と合わせられていた。

    昆布締めにした大きな伊勢海老の身は締まっていて弾力があり、酸味が海老本来の甘みを引き立てる。身の間に忍ばせたエビ味噌がさらに旨みを底上げしていて、ストレートな満足感の中にも細やかさがあった。

    山崎さんがすすめてくれたのは紀土の無量山で、その澄んだ透明感が料理とちょうどよく響き合っていた。

    松茸のお粥

    アコウと松茸のお椀

    L字型の板前では、山崎さんがまず松茸や数種のきのこを丁寧に切り分け、その後ろの小鍋で手際よく炒めている様子が見えた。

    松茸は二通りの食べ方で供された。まずは雑炊で胃を落ち着かせる。小さな一杯だが香りが良く、きのこの歯切れの良さと米粒のふっくら感が絶妙に両立していた。先ほど炒める際にたっぷりの塩を振っていたのを見ていたが、塩気で旨みを引き出すそのやり方には思わず黙って唸ってしまった。

    もう一つはアコウと胡麻豆腐を合わせた清汤(お椀)。大きめに切られた松茸は食べ応えがあり、噛むとコリコリとした歯応えがある。胡麻豆腐は濃厚な胡麻の香りとやわらかな食感で、はっきりとした対比を生んでいた。

    器も漆器と磁器の間で切り替わり、それに応じて食器の趣も変わっていく。細部に伝統的な美意識と作法がにじんでいた。

    甘鯛の松笠焼き パレルモソース

    甘鯛の脂が最も乗る時期ではなかったが、松笠焼きと軽い燻しの技法によって、魚肉本来のきめ細やかさがちょうどよく引き出されていた。

    その下には自家製のパレルモソース。パプリカ、トマト、オリーブオイルが植物の香りを際立たせ、魚のほのかな脂感とよく合っていた。

    太刀魚の揚げ物

    秋の懐石で揚げ物によく使われる太刀魚だが、山崎氏の手にかかると、軽やかな空気感と香りを両立させていた。揚げたことでかえって重たくならず、口の中で一瞬の華やぎを太刀魚に与えていた。

    赤身の肉料理の前に置かれ、脂の乗りで秋の気配へとつなぎつつ、軽やかな歯切れでコース全体のリズムを整えていた。

    この頃には一本目のワインもそろそろ底が見え始め、山崎さんのおすすめでその夜二本目のワインを選んだ。抜栓から状態の確認まですべて彼自身がこなしていて、料理とサービスを一人で兼任しているにもかかわらず、実に手際よく進めていた。

    彼の調理服に付けられたソムリエの小さなバッジに気づいた。自分のワインリストを熟知しているシェフというのは、板前でお酒を飲む上で大きな加点要素だ。

    鳩の焼き物

    遠くから山崎さんが鳩を焼き台にのせるのを見て、一気に期待が高まった。彼自身、鳩料理は「納得のいく仕上がりでなければ絶対に客に出さない」と語っていたことがある。

    期待を裏切らない仕上がりだった。火入れは三分程度、ほんのりピンク色の血色が透けている。炭の香りに支えられ、鳩肉本来の香りはほとんど「野生味」と「血の匂い」の境界線ギリギリまで引き出されていた。

    黒い焼き鳩骨のソースと白い煮出した鳩骨だしの組み合わせは面白いが、鳩肉にまとわせるのはあくまで控えめで、あくまで鳩肉そのものの食感と香りを引き立てることに重きが置かれていた。

    秋刀魚のご飯

    にしんのお茶漬け

    山崎さんの料理は品数こそ多く見えないが、どれも量はしっかりしている。主食に至っては釜飯とお茶漬けの二種類まで用意されていた。

    一方はストレートな満足感で、秋刀魚は脂が黒くなるまで炙られ立ちのぼる香ばしさが、青物の清々しい香りと対比を成す。もう一方は甘く漬けて干したにしんで、じっくりと沈んだ香りが茶の中でふわりと広がる。杯を重ねたあとに、胃に落ち着く満足感があった。

    ジャスミンのアイスとクロイチジク

    最後のデザートも強烈だった。99年のサロンでソースを仕立てていて、その香りが板前全体にふわっと広がった。

    アールグレイのアイス自体も負けていない。強烈な滑らかさと美しい茶の香りに加え、器の一番下に隠れたメレンゲが軽やかな甘さを添えている。それだけでなく、締めにはガヤのグラッパがアイスにかけられ、口の中で感じる甘さを引き締めていた。

    見た目こそ食材使いが「豪快」だが、表現そのものは繊細で完成度の高いデザートだった。

    料理も板前の雰囲気も、完全に自分の好みの美意識にはまる。どの一皿も、山崎さんの手にかかると立体的で、細部まで行き届き、完成度が高くきびきびとした仕上がりになる。

    そこには伝統的な職人技と美意識が見える一方で、現代的な融合要素を取り入れたことによる、より多層的な板前体験も感じられる。時に「乱暴」とも言える手法で視覚と嗅覚に強いインパクトを与えつつも、皿に盛られた瞬間には細部までしっかりと仕上げられている。

    ようやく、噂に聞いていた「山崎の輪郭のある料理」がどういうものか理解できた気がした。

    お酒好きの方は8:30スタートの二部を選ぶと、より余裕のある体験ができるはずだ。山崎氏が一本一本のワインを手際よくさばいていく様子も、板前での心地よい体験を支える大きな加点要素だった。

    山崎

    東京都港区西麻布1-15-3 西麻布UOUビル 1F

    火曜日〜土曜日

    17:30〜23:00

    https://yamazaki0823.com/j/

    Chef’s Menu 44,000円++

    大好きな店。これから訪れる季節をひとつも逃したくない。

  • 頭灶が板前中華を東京に持ってきた

    東京で高いお金を払って中華を食べることに抵抗があるのは、たぶん自分だけじゃないと思う。でも南青山「燦々」がオープンした時は、好奇心に勝てなかった。

    上海の頭灶の新店舗+譚仕業シェフの弟子という組み合わせだけでも十分に目を引くが、最終的に心を動かされたのは、真剣に広東料理を研究している陝西出身の若いシェフだった。

    (譚シェフの龍庭小飯桌について)

    彼のメニューには、豪華なふかひれと紅ずわいがにの春巻き、腕前が試される小海鮮の炒め物、その場で手打ちするビャンビャン麺があり、血肉が通っていて、ある瞬間に中華の職人たちへの敬意がふと湧いてくる。

    まず率直な感想から言うと、日本の友人や外国人の友人を連れて行くのにぴったりな、中華の心意気を感じさせる板前だ。

    北海道つぶ貝×名古屋コーチン 風生水起

    チャーシュー

    ちょうど燦々が秋メニューに切り替わる初日に当たり、前菜は一品のみで、すぐに焼き物に移った。

    北海道つぶ貝と名古屋コーチンで作った風生水起。揚げた里芋の細切りとみょうがを加えていて、確かに可もなく不可もない滑り出しで、強く印象に残るポイントはなかった。

    チャーシューの味は明らかに調整されていて、漬け込みの香辛料をやめ、パパイヤなど果物を漬け味の主な源に変えていた。甘みが豊かで、印象にある日本の味わいにも近づいている。真ん中に挟まった透明感のある小さな脂身はカリッとしていて、かわいらしい。

    食事中に一杯飲みたいと思ったが、燦々の現在のワインリストはまだシンプルで、相談したりおすすめを聞いたりできるスタッフもいなかった。結局、小さなワインカードから外れのなさそうな一本を選んだ。

    お酒好きの友人たちは、次回はコルク料金を払って好きなボトルを持ち込むのも検討してみてもいいかもしれない。

    この間、阿豪シェフはその日の料理に使う食材もみんなに見せてくれた。大きな紅ずわいがに2尾とふかひれを使い、その場で餡を炒め、揚げ春巻きの準備を進めていた。

    北極貝の清炒め

    帆立貝の牡蠣ソース

    8秒で仕上げる清炒めは、譚シェフの龍庭小飯桌では象拔蚌(ホッキョクダイオウミミガイ)だったが、燦々の板前では日本産の北極貝に変わっていた。

    一人ずつ取り分けるスタイルでは、鑊気(ウォクの香ばしさ)が少し損なわれてしまうものの、意外にも日本の食材が中華の調理法のもとで自分の強みを発揮していた。油に包まれた北極貝は、汁気のある歯切れの良さ、甘み、旨みを見せていた。

    続く帆立貝も負けていない。譚シェフのやり方は油で揚げてから牡蠣ソースをかけるものだったと記憶しているが、阿豪シェフの手にかかると香ばしく焼く調理法に変わり、順徳伝統の卵白の炒めミルクが添えられていた。

    パリッと甘い食感とふわふわのミルクの香りが出会う一皿は、日本の地元食材と広東の点心が結びついた見事な実例だった。

    天麻とアカマダラハタのスープ

    アカマダラハタと水菜

    16斤(約8kg)のアカマダラハタを、二つの部分に分けて使っていた。

    頭は天麻のスープに使われ、香りは蓋を開けた瞬間に集中していたが、味わいそのものは広東料理のスープに期待するような深みにはやや欠けていた。

    胴の部分は軽く揚げ焼きにしてタレを絡め、水菜を添えていた。魚肉はふっくらとやわらかく、油通し後の香ばしさがあり、皮にはほのかなとろみがあって、さっぱりとした水菜の茎がそれを引き締めていた。上質な食材と精密な火入れが結びついた美味しさだった。

    ニラと青唐辛子の蒸し物

    華やかな食材の合間に差し込まれた、この野菜の一皿にまさか驚かされるとは思わなかった。

    青唐辛子、ニラ、落花生油、そこに店自家製の醤油を少々。

    青唐辛子はフレッシュな緑の香りと瑞々しい歯切れの良さを、ニラは個性の強い香りをもたらし、落花生油と醤油が味わいの六角形をしっかり支えていた。豪華な肉や魚介の間で、この一皿のシャキシャキした野菜は、はつらつとした足取りでテーブルに飛び込んできたかのようだった。

    クリーンで、フレッシュで、シャキシャキしていて、香りの面でも一切引けを取らない。

    山椒と玉ねぎ炒めの伊勢海老

    唐辛子炒めのキス

    ぶどうのグラニテ

    国際舞台に押し出されるとき、四川料理と広東料理はまるでN極とS極のようにセットで語られがちで、それが中華の味の多様性を物語っている。燦々のこのメニューにも、日本の食材が料理のジャンルを横断するように表現される様子が見て取れた。

    山椒と玉ねぎで炒めた伊勢海老と唐辛子炒めのキスは、板前に置かれた瞬間から香りが漂ってくる。ただ味わいの面では意見が分かれるところもあり、一人分ずつ取り分けるスタイルのもとでは、板前料理が口に入るまでの味と温度が、期待にはまだ少し届いていない印象だった。

    ふかひれと紅ずわいがにの春巻き

    和牛の酢豚風

    食事も後半に差しかかり、その場で仕上げた春巻きがようやくテーブルに並んだ。

    黄金色の小さな枕のような見た目で、切ってみると具がぎっしり詰まっている。外はカリッと、中はジューシーで、大きな春巻きならではのストレートな満足感がある。手間のかかる料理がその場で作られ、仕上がっていく様子を目にすると、どうしても余分な期待と愛着が湧いてくる。

    ただ馬牛シェフが作った和牛の酢豚風は、最初のひと口こそ香ばしいものの、二口三口目には牛肉から溶け出す脂に押され気味になる。高脂質な肉と濃厚な甘酢ダレを重ねた結果、板前で食べるには飽和感が強すぎて、層の重なりがやや単調になっていた。

    海鮮大根スープ

    ビャンビャン麺

    オリーブの実入り卵チャーハン

    阿豪シェフは譚シェフの弟子として広東料理出身ではあるものの、このメニュー全体は広東料理一色というわけではなかった。

    主食のパートでは、寝かせておいた麺生地が板前に並んだ。

    手が動くたびに、麺がまな板の上で「パンッ、パンッ」と音を立てる。動きはきれいで、素早く、力強く、まるで試合をしているようなリズムがある。それが陝西の街角の生活感を、この板前にまで運んできていた。

    老婆餅と豆花のアイス

    オープンしたばかりの店として、龍庭小飯桌ほどの衝撃と比べるとまだ物足りなさはあるかもしれないが、この板前からはすでに中華料理人としての集中力と真剣さが伝わってくる。

    日本の食材と中華の技法の融合は、それぞれの強みを引き出しており、火加減や手さばきといった「職人技」もお客の目の前に持ち出され、腕そのものがその場の体験の一部になっている。

    この一食を食べ終えると、自然と「今度日本人の友人を連れて行きたい中華No.1」リストに入れたくなるはずだ。これは、東京の板前に立つ中国人シェフが、世界に向けて中華料理の魅力を見せる瞬間でもある。

    一方で、板前というスタイルを選んだ以上、店はお客に一皿一皿ではなく、完成された一つの食事体験全体を提供する必要がある。現状では、一部の熱菜の温度が万全ではなく、ワインリストの選択肢も限られていて、板前でのやり取りもまだ十分とは言えない。東京の成熟した名店と比べると、こうした弱点は体験全体の中でより目立ってしまう。

    「東京の板前中華」の頂点に向けて、一歩一歩近づいていくことを期待したい。

    南青山 燦々

    東京都港区南青山7-14-6 本間ビル 4F

    月曜日〜日曜日 18:00〜

    Chef’s Menu 30,000円++

  • acá 1°|文句なしのナンバーワン

    東京で予約が特に取りづらいのに、絶対に一度は行きたい店を挙げるなら、acá 1°がその筆頭だ。

    京都から東京に移ってきたスペイン料理店。2013年の開業以来、閉店期間などの例外を除き、7年連続でTabelogのゴールド賞を獲得している👈日本ではミシュランの星よりもずっと説得力のある指標だ。

    しかもカウンターは10席に満たないため、注目され始めてからずっと予約困難店であり続けている。

    acá 1°の東鉄雄シェフへのインタビューでは、シンプルな食材と直接的な調理法で、人に愛される料理を作りたいと語っていた。

    「驚くほどまっすぐな男になりたい」——この訳で大きく間違ってはいないはずだ。

    最初の瞬間、まずacá 1°の狭さに驚いた。

    カウンターに立つのはわずか4人。ソムリエとマネージャーが客とのやり取りを担い、シェフと副シェフの2人が炭火の前でその日の料理を仕込んでいる。

    軽く炙った鰆は、脂が澄んでいながら層の厚みがあり、燻香と火入れの加減が見事。緑の葉の下にひそませた山椒の葉が、小さいながらも際立った香りを放つ。

    見た瞬間に歓声が上がるような派手な登場ではないが、後から思い返すと控えめで美味しいと感じる一皿。

    看板メニューのコノシロと揚げパン

    トマトパンに銀皮の魚を合わせると、スペインのタパスでよく見るイワシやアンチョビを思い出す。

    だがここではスペイン流の油漬け缶詰ではなく、新鮮なコノシロを軽く〆てオリーブオイルを少量合わせている。魚は身が崩れず、美しく、締まっている。

    パンは揚げてあるが表面はやや柔らかい食感を残しており、魚とよく馴染む。トマト本来の酸味と旨みが〆たコノシロとまさに好相性で、その瞬間、登喜和のトマト舎利の意味がわかった気がした。

    内と外の両方に紫蘇とハーブを添え、旨み、酸味、かすかな青みが重なり合い、層が豊かで美しい。

    秋刀魚のリゾット

    「果汁は出せるだけ絞ってください🍋」

    今年は誰もが認める秋刀魚の当たり年。acá 1°の皿ではそれが秋刀魚のリゾットとして表現されている。互いに脂ののった食材同士を重ねると、意外にもよく馴染む。

    魚の脂の香りが米の表面の下で噛むほどに広がる。見えないレモン汁こそが、この一皿の要になっている。

    大豆クレープ巻き 稚鮎の唐揚げ

    続く一皿は稚鮎の唐揚げを大豆クレープで巻いたもの。卵を持った鮎は、腹の中に満足感を隠し持っているようだった。ほんのり甘いタレは、思い返すほどに奥深く、シェリー酒と酒粕が複雑な酸味、発酵の風味、キャラメルとナッツ香をもたらしている。

    外側にはマフラーのように山椒の葉と白ねぎが巻きつき、生地自体にもほのかな豆の香りがある。最初のひと口は北京ダックを思わせるが、満足感と複雑さはさらに一段上をいく。

    車海老とふかひれ

    今年一番感動したふかひれが、まさか日本のスペイン料理店で食べられるとは思わなかった。よく考えると、小さな一鍋の中にたくさんのアイデアが詰まっている。

    ふかひれと車海老は、それぞれ中国と日本を代表する高級食材。一方、ニンニクとオリーブオイルで仕上げるエビ料理はスペインでもおなじみだ。ここではニンニクの香りを外し、海老の頭と殻の旨みをすべて油に閉じ込め、その香りをふかひれに軽やかにまとわせている。

    食感は車海老の歯切れの良さとふかひれのぷりぷりとした弾力、それぞれの違いを非常に精密に保っている。最後には小さなパンが添えられ、残ったエビ油をすくって楽しめる。

    高級食材を一つの鍋に集めても、重たさを感じさせず、ただ純粋に美味しい。

    生ハムと松茸のスープ

    生ハムでとった出汁に、細切りにした大きな松茸を合わせる。上海の家庭料理「腌篤鮮」(塩漬け肉と生肉、筍を炊き合わせたスープ)を、また別の次元で表現したような一品。塩気、甘み、旨み、シャキッとした食感、余計な調味は一切なく、香りはすべて食材そのものから来ている。

    前の車海老とふかひれの一皿も、続く松茸の細切りも、どちらも温度の変化に極めて敏感な食感を持つ食材だ。

    しかしacá 1°のカウンターでは、そのすべてがすでに緻密に計算されている。油がぐつぐつと沸き立つ鍋の中にあっても、口に運ばれる瞬間まで、食材はちょうど最も美しい状態にとどまっている。

    神戸牛 サーロイン+パプリカ焼き|ヒレ+ブラックペッパーペースト

    メインは和牛。食事の始めに、客それぞれが好みの量を選ぶスタイル。30gでも食べきれない人もいれば、食欲旺盛な同席者は最大90gまで選んでいた。

    肉の色を見るだけで火入れの美しさがわかる。部位によって味付けや付け合わせに違いがあり、ナイフまで使い分けられている。口で感じる以外にも、五感のあらゆる部分が店の細やかな仕掛けによって絶えず刺激される。

    食事の途中でシェリー酒が一杯加わり、女性ソムリエの堂々としたパフォーマンスには感嘆させられた。良い店は客を甘やかすだけでなく、食事の最中にスタッフの隠れた技をふと引き出してくれるものだ。

    毛蟹のパエリア

    最後の毛蟹のパエリアは、京都時代から変わらないacá 1°の看板メニューだ。

    まずはそのままひと口、次にレモンを搾り、ニンニクソースを加え、さらにふかひれの皿からわざわざ取っておいたエビ油を加える。ひと鍋のご飯で4通りの味わいを、順に自分で探っていける。

    豊かで華やかで面白く、インパクトのある主食だ。一番好きなのはたっぷりエビ油を加えた後の状態——旨みが際立ち、ニンニクソースとレモンの酸味が米粒の間を巡る。少し罪深いけれど、中国にはこんな言葉がある——

    「せっかく来たのだから」

    洋梨

    山羊チーズと黒いちじく

    デザートは、季節の洋梨で軽く口を整えることから始まる。シェフはカウンターの中で慌てず自らお茶を淹れ、ハンドドリップのコーヒーを淹れ、時折炭火の上のいちじくをひっくり返して焼き目をつけていく。

    このカウンターで客として過ごしていると、まさに一瞬一瞬、大切に扱われていると感じる。

    山羊チーズのアイスクリームと黒いちじく、どちらも香りの個性が強い食材だが、この一皿でまとまるのは意外にも力強いクリーンさだった。

    山羊チーズの濃厚なミルク感を引き立て、旬のいちじくの凝縮した甘みも加わり、まとうキャラメルが心地よいほろ苦さを添える——絶品。

    acá 1°の体験が深く記憶に残ることは間違いない。「美味しさの度合い」というような基準で評価しようとすら思わなくなる。

    このカウンターでは、シェフ一人のパフォーマンスを見るだけではなく、カウンターにいる全スタッフに彼らの世界へ招き入れられ、没入型のショーを完成させたような感覚になる。やり取りが盛り上がるほど、カウンターの中の誰もが思いがけない驚きをくれる万能選手であることに気づく。

    料理について言えば、シンプルだが単純ではない。シェフはスペイン料理の一見率直な手法で、日本の食材の見たことのない一面を引き出している。

    料理の完成度に対する店のコントロール力は、恐ろしいと言っていいほどだ。器による温度の上昇や低下は、多くの店が「今日は仕上がりが悪かった」と説明する際の言い訳になりがちだが、acá 1°のカウンターでは、料理はほぼ計算し尽くされた精度で客に提供される。

    完成度、バランス、上品さ、心地よさ、満足感……語彙力に自信がない人でも、食べ終わった後には次々と褒め言葉が出てくるはずだ。最初から最後まで、このテーブルで流れる感情の一秒一秒が丁寧に扱われていた。

    名実ともに日本No.1の洋食/スペイン料理/非伝統的な和食レストラン(そう、見間違いではない。すべてにおいて1位だ)。

    アカ(aca 1°)

    東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井2号館

    月曜日〜土曜日

    17:00〜23:00

    http://aca-kyoto.jp/

    Tasting Menu 60,000 JPY ++

  • 東京旅行、あなたにとって最高の第一歩——このカンペ、コピペしていいよ

    これまで数えきれないほど東京を訪れてきたが、交通の便という観点で言えば、五反田駅はいつも第一候補だった。

    山手線沿線にあり、浅草線と池上線も通っているので、観光にも買い物にも非常に便利だ。渋谷までわずか8分、新宿まで15分、東京駅まで20分。

    周辺のホテルは選択肢が幅広く、予算に応じて選べる上、どこも近年内装が改装されている。よく利用するJR五反田ホテルは駅の中に直結していて、台風や豪雨の日でも傘をささずに電車に乗れる。

    駅構内にはユニクロがあり、徒歩3分以内にドラッグストア、5分以内にドン・キホーテもある。生活の利便性も抜群だ。

    さらに重要なのは、五反田駅を中心に円を描くと、半径300メートル以内に552軒ものレストランがあり、そのうち400軒がランチ営業をしていることだ。

    しかも上位20軒のうち14軒が百名店で、上位50軒はすべてTabelogの評価が3.5点以上。さらに、ほとんどの店は予約不要で、行けばすぐ食べられ、深夜まで営業している店も少なくない。

    これは嬉しいだろう。

    東京の買い物・移動に関するガイドはネット上にすでに十分ある。この記事では、五反田駅周辺の良いレストランを紹介したい。全部で9軒、どれも駅から徒歩5分以内。ほぼすべて当日予約か直接のウォークインで入れる。

    P.S. 一部の店は独自のInstagramを持っていて(Tabelogから直接見られる)、Instagram経由で予約したり営業時間を確認したりすることもできる。

    日本の飲食店は全体的にレベルの底が高いものだが、この9軒をブックマークしておけば、東京旅行中に何を食べるか悩む必要はもうなくなるはずだ。

    🍛ホットスプーン五反田店

    3.76 👨‍🍳 神がかったすじ肉カレー|🥢 予約不要

    💰 JPY 780+ | ☀️🌙

    📍 東京都品川区東五反田1-14-8 KCビル 1F

    五反田周辺で神がかったカレー店として、長年エリアランキングの上位5位に入り続けている。看板メニューは主に2種類。一つは🧅キャラメリゼした玉ねぎ、牛すじ、🥕野菜を6時間以上煮込んだすじ肉カレー鍋。もう一つは14種類のスパイス+🧈バターと🍅トマトで作るチキンカレー鍋だ。

    ここのカレーはご飯と一緒に皿に盛られて出てくるのではなく、小さな石鍋に入れられて運ばれてくる。まだグツグツと煮え立った状態だ。自分でゆっくりとすくい出し、細長い皿のご飯と混ぜていく。最後の一口までほぼ熱々のままだ。ラーメン店を除けば、東京のファストフードの中ではかなり珍しい体験だと言える。

    辛さは全部で5段階あり、好みに合わせて選べる。ただ個人的には、もともとの味だけでも十分香り高いので、無理に日本式の「唐辛子粉攻撃」を受ける必要はないと思う。

    定番の味以外にも、店ではトマトカレーや味噌角煮卵カレーといった期間限定の味も時々登場する。何度通っても新鮮さがある。

    安心して過ごせる居心地の良い店で、一人での食事にとても向いている。午前11時半までと午後2〜5時は、さっと食事を済ませたい人にもぴったりだ。テイクアウトもあり、ホテルに戻って食べても熱々のままだ。

    推荐:牛すじ煮込みカレー

    🍜おにやんま 五反田本店

    3.74 👨‍🍳 とにかく心に落ち着く立ち食い讃岐うどん店|🥢 予約不要

    💰 JPY 350+ | ☀️🌙 🕛 (Late night)

    📍 東京都品川区西五反田1-6-3

    五反田周辺で名実ともに麺類ランキング1位の店で、山手線の出口を出てすぐの高架下に隠れている。毎日朝7時から深夜3時まで営業していて、朝起きて一日の始まりに香ばしく温かい一杯で目を覚ますにも、夜に居酒屋を出て熱々の一杯で胃を落ち着けたいときにも、周辺で最良の選択肢だ。

    今はスタッフが外国人ばかりだが、侮ってはいけない。店では正真正銘、香川県産の小麦粉を使い、毎日打ちたての麺を用意し、出汁はあっさりとしたタイプ、天ぷらもすべて揚げたてだ。

    店の前にはいつも行列ができているが、立ち食いスタイルなので席の回転は速い。店頭の券売機で直接注文でき、多言語に対応していて、増量やトッピングの選択肢も豊富。外国人にも大食いの人にも優しい。

    冷たいうどんは弾力があり、出汁もさっぱりしている。温かい麺を頼めば、熱々で柔らかいのに弾力のある麺が食べられる。スープに半分浸かった天ぷらがお気に入りで、揚げ物の香ばしさを保ちながら出汁の旨味も吸い込んでいる。

    他のエリアでは、これほど愛想はないのに生活感と満足感に満ちた小さな店はなかなか見つからない。

    推荐:温天かけうどん+油揚げ

    🔥 炭火焼肉ホルモン まるは

    3.71 👨‍🍳 炭火焼肉+ホルモン専門店|🥢 booking.ebica

    💰 JPY 8000+ | 🌙

    📍 東京都品川区東五反田1-16-4 アルサイト 1F

    五反田周辺の店は予約にあまり気を揉む必要がない。2024年・2025年のTabelog焼肉百名店に選ばれたこの店も例外ではなく、基本的には当日でも夜8時以降の席を予約できる。店には英語メニューもある。

    肉の産地を特に強調してはいないが、基本的には芝浦市場から仕入れている。血の風味とコリコリとした食感が十分な牛ハツの和え物を食べた瞬間、目が輝く。牛の百葉の和え物も食べ応えがあり、食材は正真正銘の上質さと新鮮さだ。

    全体的にコストパフォーマンスが非常に高く、5部位を含む「和牛盛り合わせ」はわずか2,500円、同じく5部位のホルモン盛り合わせも1,900円で楽しめる。そしてその価格と対照的なのがクオリティの高さだ。

    肉もホルモンも下味の加減が絶妙で、余計な味付けはなく、食材そのものの実力に頼っている。肉のサシは均一で美しく、炭火に乗せると「ジュッ」という音とともに、外は香ばしく中は柔らかく、タレをつけなくても十分に美味しい。豪快に、熱々の白米で一口いくのも良い——幸福感が一気に上がる。普段は血の匂いが出やすいレバーも、ここでは油と塩で軽く漬けただけなのに、意外なほど柔らかく香ばしく仕上がっている。

    推荐:和牛/ホルモン盛り合わせ+米饭

    🔥 うしごろ 貫 五反田店

    3.55 👨‍🍳 外さない焼肉チェーン|🥢 Tablecheck

    💰 JPY 5500+ | 🌙

    📍 東京都品川区西五反田1-17-1 第二東栄ビル 2F

    うしごろは日本でも有名な焼肉ブランドで、国産A5黒毛和牛を使うことで知られている。うしごろS.とうしごろ貫は、その中でもハイエンドのラインだ。

    炭火焼肉ホルモン まるはのような地域密着型の小さな焼肉店と比べると、この店にはいくつか明確な強みがある。大人数向き、家族向き(高齢者や子供連れにも)、ドリンクメニューの選択肢も多い。さらに明らかなのは、予約が取りやすく、雰囲気も良いことだ。

    コースの選択肢は柔軟で、4,500円からの「貫コース」から10,000円以上の「極コース」まで、さまざまな予算に対応できる。調理法も、牛肉の生食、焼肉、しゃぶしゃぶなど多様な選択肢をカバーしている。

    もしその日、明確に行きたい焼肉店を予約できなかったなら、うしごろは同じようなタイプの焼肉店を適当に選ぶよりも、いつも頼りになる。(痛い目に遭った経験からの教訓🤷)

    🍝 小林食堂

    3.52 👨‍🍳 和×伊×仏の隠れた名店|🍴 Tablecheck

    💰 JPY 2500+ | ☀️🌙

    📍 東京都品川区東五反田5-21-6 池田山コープ 1F

    この店は駅周辺の賑やかなエリアにはなく、山手線沿いの小さな路地に隠れている。周辺のレストランの中でも比較的わかりにくい場所にあり、街中にひっそりと佇む心地よさがある。リラックスしていながら洗練さも失っていない。

    シェフの小林大輔氏は華やかな経歴こそないが、2008年の開業以来、日本の食材×イタリア・フランス料理という独自のセンスを貫いてきた。新鮮な魚はカルパッチョに、干物は煮込みパスタに使われ、米茄子や岩中豚といった地方色の強い食材も料理に取り入れられている。

    和の食材が加わっているため、この店の料理は本場イタリアのスタイルをそのまま模倣したものではない。

    例えば鹿児島産の鯖と野菜で作るカルパッチョには、昆布と柚子のジュレを加えて調和させる。秋刀魚を使った煮込みパスタには、淡路島産のきのこを加えて旨味の複雑さを引き出す。

    最後のティラミスは抹茶が主軸で、マスカルポーネの代わりに白チョコを使ってコクを加え、さらにほうじ茶のグラニテが全体の茶の香りを引き立てる。

    おすすめ:セットで十分!

    🇮🇹 VIGO ヴィーゴ

    3.51 👨‍🍳 軽く飲むのにぴったりな神がかったバー|🍴 Tabelog

    💰 JPY 7,700+ | 🌙

    📍 東京都品川区西五反田1-4-8 秀和五反田駅前レジデンス 2F

    VIGOはイタリアのバルのような雰囲気で、店に入った瞬間から一日の疲れを下ろして一杯飲みたくなるようなリラックス感がある。コースも選べるし、単品注文の場合でも店側が積極的に料理を二等分してくれる。

    料理のスタイルは非常に精巧で、日本の食材とイタリアの伝統料理が組み合わさった痕跡もあり、発想がとても繊細だ。例えば鯛のカルパッチョは、VIGOではフェンネルの球根と合わせられ、少しの果物と燻香が添えられる。使われているオリーブオイルの質は極めて高いが、店は一言も触れることなく、静かに料理の香りを引き立てるために使っている。

    パスタにもどこか反骨精神がある。あさりのパスタに山椒の葉を加えたり、風干しの魚卵を細麺に合わせたりするだけでなく、なんと担々麺の選択肢まで見かける。レシピは奇抜だが味は良く、毎回また違う新しさを試したくなる。メニューの価格は決して安くはないが、食材も量もしっかりしている。そしてワインリストは本当に心地よく手頃な価格で、マイナーで面白く美味しいイタリアワインも見つかる。一人でカウンターに座って一杯飲んでも気負う必要はない。

    個人的にぐっときたポイントを一つ。初めて訪れたとき、野菜を補うためにサラダを追加しようか迷ったが、残してしまったら失礼かもと躊躇した。シェフは多くを語らず、ただ静かに私たちのカルパッチョの野菜の量を増やしてくれた。もてなしの端々に細やかな心遣いがあり、小さなバーの体験とは思えないほどだった。

    おすすめ:コースがとても良い!単品も今のところハズレなし(パスタは塩分控えめもリクエスト可能)

    🍝 Radicare ラディカーレ

    3.46 👨‍🍳 生活感たっぷりのパスタ店|🍴 Tabelog

    💰 JPY 1500/8000+ | ☀️🌙

    📍 東京都品川区西五反田1-20-2

    驚くほど良い、地元密着型のパスタ店だ。訪れる客の多くは周辺の住民で、ランチセットは1500円から。店全体が家庭的な雰囲気を漂わせていて、厨房で揚げるにんにくの香りにも生活感がにじんでいる。

    シェフはパンとサラダの準備から、魚を切り、海老の背わたを取り、鍋を振って他のテーブルのパスタも同時に用意し、仕上げには一本つまんで火の通り具合を確かめる。すべての動作が流れるようでありながら、力の抜けた自然さもある。料理の様子は荒々しく見えるが、切りたてのハムや新鮮な大きな海老といった仕込みの細部から、味付けの仕上がりのバランスまで、実に見事に整えられている。

    レモンモッツァレラのパスタが特にお気に入りで、量は皿の上に小さな山ができるほど。一口噛めばアルデンテの歯ごたえと美しい酸味がある。散らされた薄切りの蓮根は柔らかく清々しく、まったく違和感がない。上にかけられたモッツァレラは麺の中で徐々に溶けていき、食べるほどに香りが増していく。

    軽く一杯飲むなら、ワインのセレクトもしっかりしていて悪くない。マスターがグラスに酒を注ぐ瞬間には、この家庭的な小さな店には似つかわしくないほどの優雅さとこだわりが垣間見える。

    おすすめ:ランチのコスパが非常に高い

    🍶 桑原商店

    3.43 👨‍🍳 立ち飲み居酒屋・酒屋|🥂 予約不要

    💰 JPY 2000+ | ☀️🌙

    📍東京都品川区西五反田2丁目29番地2号

    旅行者と日本酒初心者にとって、極めて優しい酒屋だ。

    店には200種類以上の日本酒がボトル販売されていて、そのうち40種類以上は夕方以降グラスでも提供される。ラインナップは日々入れ替わる。自分が何を好むのかまったくわからない人のためにも、30mlの試飲が用意されている。

    店内で飲むのは立ち飲みスタイルで、簡単なつまみも選べる。会話を楽しんだり、いろいろ試したりする空間としての意味合いが強い。運が良ければ、蔵元本人がここに立ち寄っていて、酒の物語や造り方を直接語ってくれることもある。

    ブックマークしておくのがおすすめ。通りがかったら一杯どうぞ。新しい発見があるかもしれない〜

    🍶 敦盛

    3.21 👨‍🍳 お酒だけでなく、犬もモフれる|🍶 Instagram予約

    💰 JPY 3,000+ | 🌙

    📍 東京都品川区西五反田1-30-6 モリカワビル B1

    五反田周辺で私が一番好きなバーだ。店主はサッカー好きの鹿児島出身のおじさんで、愛犬のぶうちゃんと一緒に毎日店に入り浸っている。

    グラスで飲める日本酒の選択肢が豊富で、十四代や新政のような広く知られた銘柄も少なくない。値段も良心的で、ラインナップも頻繁に入れ替わる。

    何より重要なのは、店の焼酎の在庫が東京の99%のバーを上回っていることだ。芋焼酎、栗焼酎、麦焼酎とあらゆる種類があり、前割りの「宝山」まである。マスターは一見気ままな様子だが、焼酎の温度や割り方の扱いは実にプロフェッショナルで、焼酎の良さを本当に捉えさせてくれる店だ。

    注意点として、この店は煙草の匂いがある(禁煙ではないようだ)。また食事はほとんどないが、外から持ち込むことは許可されている。

    もしかしたら、いつかここでばったり会うかもしれない〜

  • 大人の味わいの焼き鳥店|水づき

    どんな日本の料理人にも東京の夢があり、どんな東京の料理人にもアメリカの夢がある。ここには自分の夢見た街に根を下ろす人も多いが、一、二年後にひっそりと故郷へ戻っていく人も少なくない。

    「水づき」は成功例と言っていいだろう。かつては岐阜県ナンバーワンの店だったが、東京の“ニューマネー”が集まるエリアに店を構え、今ではすでに1ヶ月以上前の予約が必要な状態になっている。

    オーナー兼大将の水木淳二氏は、有名焼き鳥店での修業経験はないが、地元・岐阜県での12年間の営業で広く評価を集め、ミシュランのリストにも名を連ね、地元屈指の予約困難店となった。2024年末、50代半ばを過ぎた水木さんは東京に店を開いた。

    一見のんびりとした銀髪のおじさんが、こうして自らの力だけで東京まで辿り着いた。彼の焼き鳥は独自のスタイルを持っていて、豪快でありながら炭の香りで塩気を支え、それでいて中心部には常にわずかな半生の新鮮さを残している。本当に、確かな考えと粘り強さを持ったおじいちゃんだ。

    近江地鶏 むね肉 もも肉

    すっぽん松茸の鶏スープ

    時間通りに席に着くと、水木さんはすでに炭を熾し終え、焼き始める準備をしていた。

    どちらの部位も近江地鶏だった。もも肉はまだほんのり桃色を残していて、外側の塩は大胆にかけられ、噛むとしっかりと弾力がある。むね肉には小さなパリッとした皮がついていて、燻香もはっきりと感じられた。

    鶏の香りと肉の食感がしっかりと感じられる幕開けで、口の中の爽快感が一気に燃え上がった。

    むね肉のカツレツ+ブルーチーズ

    一つ目の意外性は、揚げ物にむね肉というしっかりとした部位を選んでいたこと。二つ目は、ブルーチーズというインパクトのある味付けを使っていたことだ。

    軽やかな衣に、火が入ったばかりのむね肉。鶏肉本来の繊維は崩されておらず、ここではその弾力ある柔らかさの一面を見せているだけだ。カツレツは非常に軽やかに揚げられていて、箸だけで割ることができた。

    ブルーチーズはいつも通りの個性的な香りだったが、そのクリーミーな食感が、サクサクの衣とむね肉のどちらとも明確な対比を作っていた。

    食材の状態を的確に表現していて、二度と再現できないタイプの美味しさだった。

    鶏の白レバー

    つくね

    赤身

    青草のような香りをまとった白レバー。つくねは締まっていて肉の香りが豊かで、食感も柔らかい。赤身は外はパリッと中は柔らかく、たっぷりの塩の下から鶏の旨味がはっきりと感じられた。

    最初の一串から、水木さんのスタイルがはっきりと感じられた。手つきは落ち着いていて的確で思い切りがよく、外は香ばしく中は柔らかい、力強い味付けとバランスの好例だった。

    どの串も外側は炭の香りに包まれていながら、芯にはわずかに半生の状態が残っている。塩は思い切りよくかけられているが、それによって引き立つ鶏の味わいはちょうどよかった。

    骨付きもも肉

    舞茸

    大きな肉が焼き台に乗っていると、いつも際立って目を引く。脂を滴らせる何切れかの肉を、水木さんは近火と遠火の間で何度も切り替え、ひっくり返し続け、なかなか卓上に運ばれてこない。

    大きな骨付きもも肉は、近火と遠火の間を行き来することで、まず炭火焼き、その後燻製のような工程を経ている。広がった皮は、爆ぜるような脂の香りを放ちながら、ほとんどパリパリになるまで焼き上げられている。骨から外した肉にはまだ血の色が残り、極めて柔らかい。鶏肉の質感、鶏脂の香り、そして炭の香りが見事に表現されていた。

    一方の舞茸は、意外にもかなり甘口で、山野の味わいを巧みに引き出していた。

    銀杏

    豆腐

    ぼんじり

    皮とぼんじりは脂の比率が最も高い二串だが、水木さんのメニューではむしろそのパリッとした食感と弾力がより前面に出ていた。

    濃いタレをまとい少し焦げ目のついた皮の脂はパリッとしていて、塩を効かせたぼんじりは、香ばしい歯ごたえと口に入れた瞬間に溶ける脂を一つに結びつけていた。

    豆腐も手を抜いていない。炭火で軽く炙った後、肉そぼろ、みょうが、香味ねぎ、大葉と和えられていて、香ばしく柔らかい中に炭の香りをまとった小さな幸せがあった。

    海老芋

    食道

    セセリ

    水木さんが近火と遠火を実に見事に切り替えているのが見て取れる。どの部位の扱い方も、まるで体に染み付いた記憶のように熟練していた。

    使われている鶏肉自体、脂のつき方が美しく、上質な鶏らしい香りが十分にある。皮は常にちょうどよい焦げ香を保ち、肉は半生でとろけるように柔らかい食感を持つ。燻香もまた重要な加点要素で、水木さんの焼き鳥には、鶏肉にヴェールのようにまとわりつく燻製の気配がある。

    味が濃いと文句を言いたくなることもあるが、串を一本また一本と食べ進めるうちに、幸福感で満たされていく。

    岐阜蕎麦

    すっぽん松茸雑炊

    チキンカレー

    水木さんのメニューにはすでに主食が2品用意されている。そのうちの一つは、故郷・岐阜から来た蕎麦だ。

    麺はしっかりと締まっていて、なめらかな喉ごしだ。最初の一口はわさびと塩で和え、口いっぱいに蕎麦の香りが広がる。その後、出汁に浸してたっぷりの生ねぎと絡めると、香ばしさに加え、蕎麦特有のつるりとした柔らかさと、わずかに雑穀のような噛みごたえが実に純粋な味わいだった。

    追加の主食にはカレーを選んだ。鶏肉の東南アジア風カレーで、たっぷりのご飯が多彩なスパイスを支えている。味は濃いが、香りも豊かだった。

    全体を通して、水木さんの料理はやはりとても気に入った。豪快でありながら丁寧だ。食材の扱いには大胆さがありながら、細部の一つひとつまできちんと処理されている。

    この板前に座って食事をすると、特に生活感というか、賑やかな熱気を感じる。例えば焼いている間、鶏の脂が炭に滴り落ちて煙が立ち上るのが絶えず見えるし、時には明るい炎が上がることもある。店では塩使いが思い切っているが、たっぷりとかけられる塩はいつもちょうどよい塩気になる——それは使っている塩があらかじめ減塩処理されていて、塩分濃度が下げられているからだ。

    この記事を書くにあたって、水木さんの過去のインタビューもいくつか掘り起こしてみた。店がオープンしてまだ11ヶ月しか経っていないにもかかわらず、鶏肉の調理法は絶えずより高いレベルへと磨き上げられ続けているようだった。

    追加注文はいつも20種類以上の選択肢があり、水木さんはどの部位の火加減と表現したい味についても、ほぼ手慣れた様子でこなしていく。長年の経験の積み重ねから来る理解だ。

    「焼き鳥を食べるって、こんなに爽快なんだ」と思わせてくれる店だ。全体の満足感は非常に高く、インパクトも多方向から押し寄せてくる。

    お腹を多めに空かせてから来ることを強くおすすめする。あと、お酒を飲む方には、ワインや日本酒はいっさい諦めて、迷わずハイボールを選ぶことを強くすすめたい。

    水づき

    東京都港区白金6-23-2 白金宏和マンション 1F

    Friday – Tuesday

    17:30 PM -11:00 PM

    Omakase Menu 13,200 JPY

  • わたなべ|独学で道を極めた料理の天才

    最近は写真中心の手短な投稿が多く、食事の記録もできるだけ手早く簡潔に済ませようと思っていた。それでも「わたなべ」だけは、きちんと一本書き上げたかった。

    これまで書いてきた多くの店とは違い、この店は実は予約困難店でもなければ、有名店でもない。せいぜい🥉Tabelogの銅賞といったところだ。

    シェフは飲食一家の出身だが、家業である和菓子作りの枠から飛び出し、旅と修業のアルバイトを重ねながら独学で腕を磨いた。何度かの荒波をくぐり抜けた末、白金高輪に現在の「わたなべ」を開いた。

    ここでの食事体験は心地よく満たされていて、途中で次々と小さなハイライトが飛び出してくる。個性のにじむ記憶に残る瞬間が少しずつ積み重なっていき、食べている最中から、もう次に来ることを楽しみにしてしまうほどだ。

    削りたての鰹節と昆布の出汁

    八丈島産東京レモンの器 鱈の白子蒸し 百合根

    席に着くと、大将の渡辺さんがその場で鰹節を削り始める様子を眺める。一晩に一巡だけの夕食は、すべての料理がゆったりとしたペースで進んでいく。

    クリスマスに訪れたが、懐石屋にクリスマス限定メニューなどあるはずもない。しかしその日発売のクリスマス限定新政No.6だけは絶対に外せない。もちろん最初に開けた微発泡の一本も、フレッシュな新政の泡——ここではおなじみの光景だ。

    特筆すべきは、渡辺さんの経歴に日本酒専門店でのホール勤務4年間が含まれていることだ。そのため店の酒選びのセンスは非常に良く、新しい感覚の希少な酒がいくつも板前から出てくる。

    鱈子はレモンの器に盛られて登場し、鼻いっぱいに超新鮮な柑橘の香りが広がる。白子が濃厚さを担い、百合根は柔らかく、蓋についたレモン汁を少し搾り入れると、美しくフレッシュな酸味が加わる。

    香箱蟹ご飯 裏ごし筋子 出汁醤油

    香箱蟹と松葉蟹は懐石屋の冬の定番組み合わせと言っていい。蟹を捌く腕前が試される一方で、それぞれのシェフがどう自分のスタイルを出すかも見どころだ。

    ここでシェフが合わせているのは、裏ごしした筋子のソースで、繊細で濃厚、かなりの加点要素だ。旨味は椀からあふれ出てきそうで、香箱蟹の身、蟹味噌、卵の三層が重なり合い、ソースが粒感のあるご飯にまとわりつく。一口ごとに違う食感がありながら、強烈な旨味のインパクトは保たれている。満足感が高い。

    甘鯛

    甘鯛の椀物としては指標となる一品。

    温かく澄んだ出汁の中で、魚の身は繊細な締まりを保っている。甘みは内側へと収束していき、あの細やかで、口の中にまとわりつくような「甘」が本当に美しい。

    十四代の愛山を合わせるのは、間違いなく正解だった。

    中トロ 真鯛 泥障烏賊

    絶品の烏賊にありついた。最近使っているのは青森県産の烏賊で、口の中での粘りが大胆でありながら、決して乱暴ではない。柑橘がわずかな清々しさをもたらし、口に広がる甘みが後を引く。

    「切っていないものも試してみてください」

    小さな一片を渡され、思わず——本当に良い食材を使っているなと感じた。

    大阪海老芋の揚げ物 車海老ソース

    直汲み

    超絶海老芋……!

    揚げた海老芋は、外側が軽くサクサクとした殻で、中はなめらかで繊細——それだけですでに魅力的だ。その下にある車海老ソースこそが肝で、一気に香りと旨味を引き上げてくれる。

    香り、甘み、旨味が口の中で一層一層と開いていき、奥の方にはミニトマトの気配もかすかに潜んでいる。

    本気で饅頭の切れ端で皿の底を拭いたくなった。

    越前蟹

    四農山田錦

    越前蟹の部分は新鮮で美しく、その作り方はほとんど「純粋」の一言で言い表せる。

    蟹の脚はシンプルな処理のみで、旨みと甘さがストレートに感じられる。蟹味噌は殻の中に収めたまま軽く炙られ、香りが立った瞬間、それを蟹味噌にするのはこの上ない幸せだ。旨味は控えめで、一気に弾けるタイプではなく、じわじわと奥へ押し進んでいくような層の作り方をしている。

    金華豚 銀杏 朴葉焼き

    卵白 牡蠣 大根蒸し

    豚肉は柔らかくジューシーで、罪深いほど魅惑的な豚脂の香りをまとい、火入れも脂の加減もちょうどよく決まっている。野菜味噌がわずかな酸味を加え、脂の重さを切り開きながら、朴葉自体の香りをゆっくりと立ち上がらせる。

    全体的には「白い紅焼肉(ホンシャオロウ)」に少し近い印象——醤油色の重厚さは薄れ、代わりに清潔で心地よい香りと甘みの層が加わっている。

    続く卵白、牡蠣、大根の組み合わせも面白い。味わいは穏やかで、口当たりは柔らかく、それでいて鮮度とかすかな燻香に支えられている。定石通りではないのに、懐石の優雅さを崩すこともない。

    鰤大根の混ぜご飯

    枕崎の鰹節 卵かけご飯

    主食の鰤大根混ぜご飯は、二人で丸ごと一鍋。炭火の香りも脂も濃厚なのに、後味は意外にもさっぱりとしている。

    おかわりを頼もうとしたところで、残りはお土産として包んでくれると告げられた。というのも、シェフはさらに3種類の主食を選べるように用意していたからだ……枕崎の鰹節と生卵かけご飯、白魚のからすみ混ぜご飯、鶏肉とほうれん草のカレー。まったく異なるスタイルの3種類、つまりどんなご飯好きでも満足できる一皿がきっとあるということだ。

    客がまだ主食選びに没頭している間に、シェフはすでにデザートに取りかかっていた。急ぐことなく、その場で液体窒素を使ったくるみのアイスクリームを仕立て、茶葉もその場で焙じていく。

    柔らかく繊細で、くるみの香り、キャラメルの甘さ、ミルクティーのような風味が重なり合う。とても控えめなのに、一口また一口と止まらない。大好きだった。

    渡辺大将の料理スタイルは、懐石で当たり前とされてきた組み合わせを本当に打ち破っているのに、控えめなスタイルでその優雅さをしっかりと守り抜いている。

    すべての美しさは外に向かって誇示されるのではなく、心の中でひっそりと弾ける——この板前に座り、食べ物を口に運ぶことは、内側の奥深くから少しずつ湧き上がってくる幸福感なのだ。

    絶対にまた来る!!!!

    わたなべ

    東京都港区白金1-29-9

    ライオンズマンション白金東 1F

    17:00 PM – 0:00 AM 不定休

    Omakase ¥38,000++

  • 南米まで飛ばなくても、東京で世界一が食べられる|MAZ

    実際に訪れる前は、人はいつもランキングやリストに載っているレストランに、なんとなく根拠のない信頼を寄せてしまうものだ。

    だから、かつてWorld’s 50 Best No.1を獲得し、今では殿堂入りとも言えるBest of the Best(主要ランキングからは外れた)に卒業したCentralが、東京にも店を構えていると知った時、どうしても試したくなってしまった。このリストには過去に痛い目に遭ったこともある——サービス、雰囲気、料理、それぞれに失望させられたことがあった。でも人は、傷が癒えるとすぐにその痛みを忘れてしまうものだ。

    先に結論を言っておくと、MAZは面白くて試す価値のある店で、ペアリングを頼むことを強くおすすめする。

    どちらかというとCentralとMaterの海外実験室のような存在だ。「Afuera hay más(外にはもっとある)」という理念のもと、ペルーの垂直生態系とフィールドシステムを、緊張感があり、密度が高く、一分一秒を争う東京のリズムの中に持ち込んでいる。

    器や食材の識別性がそのまま保たれているのが見て取れるし、どの皿にも「物語の手がかり」を持たせることにこだわっていて、それでいて客に十分な参加感も残している——体験を核として、テーブルの上に一時的にCentral、リマ、ペルー、そして南米全体にまつわる空間を作り上げている。

    メニューの物語を貫くキーワードは「垂直生態系」。標高が土地を異なる気候帯・産物帯に切り分け、メニューの中でペルーの異なる標高、風土、文化が並置され、対比されているのを同時に見ることができる。

    ただ、もしすでに南米に行ったことがあるなら——CentralやMilの基準で期待しないでほしい。MAZはあくまで東京のテーブルの上に立って、客にペルーの物語を語る店で、どうしても「持ってきた」テーブルという感覚がつきまとう。文化的な原型は保たれている一方、輸送条件などの理由で一部の食材は置き換えられている。

    わかりやすく言えば、Shake Shackが中国に進出したようなもので、メニューは変わらないが、食材はどうしても入れ替わってしまう。

    オープニングは意外と“日本的”だ。冬のメニューでは、今の東京のファインダイニングで最も人気の高い3種の蟹——ズワイガニ、毛ガニ、香箱蟹——を使ったウェルカムスナックの組み合わせが登場する。

    ズワイガニは春巻きのような見た目だが、口に入れると想像以上に「柔らかい」。皮には少し弾力があり、優しく中の蟹肉を包み込んでいる。上にはゼリー状のものが乗っていて、塩気と旨味がクリーンだ。

    毛ガニと白えびが黒いイカ墨のタルトの中に一緒に包まれている。見た目はどこか謎めいているが、食べるとはっきりとした旨味とパリッとした歯切れの良さがあり、噛んでいる途中に不意に、海辺の湿った緑を思わせる植物的な感覚が現れて、意識を「海鮮」から「生態系」へと引っ張っていく。

    一方、香箱蟹には3種類の大根が添えられている。まず来るのは美しい酸味で、クリーンで清々しく、ほのかな玉ねぎの辛みと蟹肉の柔らかさが重なり合いながらも、余韻はしっかりと旨味がある。

    この時、卓上に注がれたソーヴィニヨン・ブランの組み合わせも実に見事で、静かに鮮度をまっすぐに、長く引き伸ばす役割を果たし、3種の蟹を最初から最後まで澄んだ状態に保っていた。

    二皿目は、座標を一気に標高1250mの「high valley streams」へと飛ばす。主役は季節の野菜と川の小さな恵みたちへと切り替わる。

    スリッパのような形の石器からナイフとフォークを取り出し、野菜のスティックを海老のスープに混ぜ込む。傍らには「ロブスターの山」も添えられていて、全体の美意識がとても洗練されている。

    運ばれてきた瞬間から甲殻類の香ばしい香りが漂い、海老味噌のスープは十分に濃厚で、旨味のあるとろみがどの一口にもまとわりつく。さらに意外なことに、小さなロブスターボールの中からもちもちのポテトボールが顔を出す。

    もう一方の「ロブスターの山」の本当の主役は、実は一番上に乗った、花を頂いた小さな蟹だった。ここではむしろ、清々しくパリッとした小さな箸休めになっている。花の香りは一瞬で過ぎ去り、小さな蟹の海の風味が静かに締めくくる——この一皿の中で「濃」と「淡」の美しい対比を描いている。

    北海道産帆立貝のセビーチェ。ソースはこのペルーを代表する料理特有の、果実のような清々しさと酸味をはっきりと再現している。

    しかし食べてみると、少し「原始的」すぎた——ごく標準的な、ごく普通のセビーチェの味だった。盛り付けによってより複雑に、まるで「説明が必要な」作品のように見せている以外は、シンプルで美味しいはずのものを、多少こねくり回してしまったような印象だった。

    傍らに添えられた帆立の生殖巣のチップスは、むしろ好印象だった——フレッシュでパリパリとしていて、噛むほどに香ばしくなる。出しゃばらないのに、しっかりと加点してくれる名脇役だ。

    和牛、紫キャベツ、たけのこ、ポケットブレッド、チーズ。

    まさかこの一皿が「クセにクセを重ねた」料理になるとは思わなかった。さらに意外だったのは、そのクセがどうしようもなく癖になってしまうこと——美味しくて、好きで、今思い出してもちょっと恋しくなる。

    皿の上には脂を伴った発酵臭が漂い、ポケットブレッドの中には長期熟成チーズが詰められていて、より直接的で動物的な香りが正面からぶつかってくる。二つのクセが重なり合いながらも、ちょうどよいバランスで、皿全体により深い層を生み出している。

    フラットブレッドはあくまですべてを支える器でしかないはずなのに、厚み、柔らかさ、わずかな弾力のコントロールが非常に見事で、二つのクセの強い香りを口の中でしっかり受け止めながら、決してその存在感を奪わない。

    合わせるワインも巧みで、骨格のしっかりしたチリ南部産のピノ・ノワールが使われていて、はっきりとした酸味とやや辛口の構造感がある。ここではむしろ口の中のクセの強い香りを潔く引き締め、発酵とチーズの脂を切り分けるかのようだった。

    鮭の卵と松茸の組み合わせ——本来なら二つの「鮮度の爆弾」がぶつかり合う、理屈の上ではさぞ爽快なはずの一品。しかしこの一椀は、正直なところ塩気が強すぎた。

    しかし合わせたワインは相変わらず面白かった。出されたのはペルー現地、ピスコ・バレー産のワインで、日本の他の場所では販売されていないものだった。ワイン自体は非常に辛口で、ナッツの香りも強い。しかしこの料理と出会うと、口の中でむしろ丸みを帯び、もともとあまり目立たなかったかすかな甘みまで引き出されてきた。

    続く黒緑色の一皿は、見た目とはまったく違う中身だった——タコ足と炭火焼きの白子。こちらも記憶に残る要素には欠けていた。

    丸ごとのゆり根がテーブルに運ばれてきて、シェフが客の目の前で一片ずつ剥いていく。まず雪の中で2ヶ月熟成させ、その後ペルー現地のじゃがいもの焼き方で焼き上げたものだ。

    ゆり根そのものは、ほとんど溶けてしまいそうなほど柔らかく、甘さは極めて澄んでいて控えめ——食べれば食べるほど好きになる、まるで冬の冷たさと植物の糖分を一口に凝縮したような味わいだ。傍らには、ミントを感じさせる唐辛子ソースが添えられていて、後味にはかすかな燻香の気配もあり、清らかな甘みをより深い層へと引き上げている。

    あまりに美味しくて、本当のメイン料理を危うく忘れそうになるほどだった——プラチナポーク。こちらも同じく「柔らかさ」の路線で、肉の香りは濃厚、繊維は梳かれたように細かい。

    合わせるワインも相変わらずハイレベルな仕上がりだった。アルゼンチン・ウコバレー産のワインで、運ばれてきた時にはちょうどよくデキャンタされていた。豊かなハーブとスパイスの香り、柔らかなタンニンとほのかな甘みがあり、ゆり根の清らかな甘さとソースの燻したミント感の両方にぴったりと寄り添っていた。

    ノンアルコールペアリングより

    丸ごとの柚子が、そのままの姿でテーブルに運ばれてくる:果皮は完全な形を保ったまま、切れ込みには小さな器がはめ込まれている。果実の中に宿るプレデザートだ。

    口に入れるとまず柚子特有の酸味とほのかな苦味が来て、その後にかすかな甘みが顔を出す。山椒の粉が実に良い相棒で、明るく爽やかな香りとしびれ感をもたらしてくれる。

    ここで一言付け加えておきたいのだが、店のノンアルコールペアリングも実に見事に作り込まれていて、見た目の美しさもテーブルでの燻煙演出による体験も、非常に丁寧だった。お酒が飲めない客にとっても、「食卓の飲み物」としての体験がしっかりと補われていた。

    食事の締めくくりとなるメインデザートは、ペルーで最も重要な産物の一つ——カカオに行き着く。

    一度に4種類のカカオを使い、5つの小さなデザートに分けて構成している。重ねて食べると正直かなり「重い」が、コンセプトは実に興味深い。

    カカオの栽培は非常に骨が折れる一方で、実際に使われるのはカカオ豆だけで、残りの部分は捨てられてしまうことが多い。そこでこのデザートでは、カカオの果肉、果汁、外皮までもすべて料理に取り入れている。甘みはヤーコンの果汁を借りて表現されている。

    食事を終えると、たくさんのカードを抱えて家路についた。

    振り返ってみると、この一食で味そのものの記憶はそう多くはないが、それでもMAZという体験は、東京の中ではやはり特別なものだった。提示の仕方、ペアリングの選び方、そこかしこににじみ出る地域文化・生態・産物・美意識への理解——それらが記憶に残り、この店ならではの個性を物語っている。

    そもそもCentralの海外版という位置づけなので、ペルー現地で得られるあの実地の体験感や食材と、単純に比較するのは難しい。

    なんというか、もし訪れるなら、絶対にペアリングを頼むことをおすすめする。

    あと、予約時間の10分前には到着しておくこと——地図上ではこの店の場所は見つけにくい。

    MAZ

    www.maztokyo.jp

    5:00 PM -11:00 PM close on Tuesday

    Vertical gaze 30,800円 (Veg friendly)

    Wine pairing 13,750円