富山旅行の中で、あえて1日を金沢へのデイトリップに充てた。北陸のスペイン料理界の王者、Respiraciónを訪れるためだ。

レストランは金沢の中心的な市場、近江町市場のすぐ近くの町家にある。第二次世界大戦を生き延びた日本の伝統的な連棟建築で、築150年以上。
3人のシェフは全員石川県出身で、幼稚園の頃からの幼馴染。それぞれ世界各地で料理の腕を磨いた後、故郷に戻ってこの店を開いた。幼い頃からの仲間が一緒に事業を始めるというのは、なんともかっこいい話だ。

Respiraciónとは、スペイン語で『呼吸』を意味する。
レストランは新派のスペイン料理の手法を通して石川県の食材を表現し、Respiraciónならではの体験、居心地の良い空間、そして金沢だけのスペイン料理を作り上げることを目指している。
うーん、例えるなら、厦門出身の3人の子供たちが世界中を回った末に故郷に戻り、福建の食材で組み立てたイタリアンを開くようなものだろうか。

Impact shrimp|甘海老

冒頭の甘エビは開業以来の定番料理。エビの頭はジュレに、殻はタルト生地に、身は塩麹でほんのり漬け込んでいる。
口の中で広がる鮮度の心地よさは頭に直撃するようで、甲殻類ならではの鮮やかな張りがある。甘さともちもち感の間で、北陸の名産を再構築した、金沢限定の分子ガストロノミー的な一皿だ。

Mar|ホッキ貝
大ぶりのホッキ貝を炭火で炙り、金沢キュウリや海苔、リンゴなど地元の野菜と合わせている。いわばセビーチェのローカル版と言える一皿。
ハーブの香り、パリッとした食感、酸味がふんだんに感じられ、外側を包むバターが全体をひとつにまとめている。

Setas|舞茸



北陸の舞茸がちょうど旬を迎えていたので、レストランは思い切って巨大な舞茸の株を丸ごとテーブルに運んできた。実際の舞茸はクッキーとプディングに姿を変えている。
イチジクの下に敷かれているのはピーナッツムースと舞茸のスープ。重厚感に包まれながら、幾重にも旨みが開いていく爆弾のような一皿だ。ピーナッツのコンブチャがほんの少し混ざり、明るい酸味が記憶に残るアクセントになっている。
ここでのペアリングは1996年ヴィンテージの手取川の古酒。とても美しく大胆で、意外なほどの鮮度のバランスを見せていた。

レストランは数年前からサステナビリティのプログラムに参加しており、いくつかの料理にもその考え方がしっかりと表れている。
例えば、毎日出るパンの残りを養分にして自家製味噌を仕込み、この料理のラビオリ部分の味付けに使っている。後で登場する鹿肉でも、骨から取ったスープが活かされている。

Calamar|赤いか/黄色トマト

金沢港の赤イカは中央部分のみを使用し、3日間熟成させることで食感と甘みをより際立たせている。上には白エビがのり、フレッシュでもちっとした食感を添えている。
山で採れた黄色いトマトで作ったソースは、正直かなり苦かった。ペアリングの甘さが、逆に干したイカの生臭さを増幅させてしまっていた。


コースの合間には、店自製の焼きたてパンが登場。15種類の穀物をブレンドした酵母で作ったプレーンなパンで、気泡が美しく膨らみ、噛むほどに複雑でありながらバランスの取れた味わいだった。
付け合わせにはバターではなく、ヤギ乳とにごり酒で作った白いソースが用意され、ミルキーさと旨みが互いを引き締め合っていた。


Oso|加賀蓮根/熊

白山で獲れた熊肉をラグーに仕立て、旬の蓮根と、炭火でとろとろに焼き上げたナス泥を添えている。
爆発的な肉の香りをクリームがしっかりと受け止め、全体としては柔らかさと張りを兼ね備えた仕上がり。かすかな燻香と植物的なニュアンスがその間を漂う。強烈な一撃の後、次から次へと風味の情報が押し寄せ、余韻は長く、そして濃密だった。



Pescado|アマダイ
福井産のアマダイに、スペイン北部のPeli Peliソース(要は辛味ソースだが、ここではまったく辛くない)を合わせている。上にかかった白いソースには魚の骨のだしとカリフラワーが使われ、さらにフレッシュな柚子と炭化させた柚子皮の要素も加わっている。
全体を通して見事なまでに生臭かった。完全なる失敗だ。
SAYS FARMのソーヴィニヨン・ブランを合わせていて、これが意外と合っていた。理由はぜひご想像にお任せしたい。

プラム、ローズビネガー

Carne|鹿

北海道産の若鹿の背肉を使い、メニュー全体で余った野菜くずでソースを仕立てている。内臓の部分はスパイスと合わせて、鹿肉ボールに揚げている。
技術的な欠点はなかったが、あまりに抑制がきいていて、逆に記憶に残りにくくなっていた。例えば野菜のソースには、これといった際立った調味の工夫が見られず、シェフが店の『サステナビリティ』という願いを実現させただけ、という印象の方が強い。
儀式感の方が、実際の完成度を大きく上回っていた。



Paella|ズワイガニ

スッポンのリゾット
Respiraciónのメニューには一年を通して必ず一皿の海鮮ご飯があり、季節ごとに内容が変わる。
10月はズワイガニを使用していたが、そもそも味付けの濃い料理であるうえに、Respiración版は旨みが弱く、ソースの味が前面に出てしまい、正直それほど美味しいとは言えなかった。
一方、裏メニューのスッポンのリゾットは、旨みがあってふわっと柔らかく、胃に優しく収まる一皿だった——
——というより、リゾットというよりはスッポンのお粥に近い印象だった。


Cedro|能登杉

Pera|梨/宝連葛
デザートは嬉しい驚きだった。主役と脇役の区別がないような二品で、片方はふくよかで濃厚、もう片方は清々しく甘い。梨という一つの食材だけで、4種類の食感を作り出していた。
最後にハーブティーが一杯添えられ、記憶に残る清涼感と、すっきりとリセットされる感覚を味わえた。ゲストを気持ちよく送り出すための、細やかな心遣いが感じられた。


改めてRespiraciónでの一食を振り返ると、確かに現代スペイン料理の手法を数多く取り入れているが、食材が金沢・石川県のものに立ち返っているからこそ、味の方向性としては本来のスペイン料理とはまったく異なる体験になっていた。
『スペイン』的な部分は、主に新鮮な食材の大胆な再構築や組み合わせ、そしてサステナビリティの理念の実践に表れている。
ローカライズのコンセプトは十分に表現されていたが、あえて惜しい点を挙げるなら、調味がやや抑制的すぎたことだろう。
サービスの距離感やテンポ、そしてソムリエの語り口の力の抜き方とペアリングの完成度の高さは記憶に残るものだった。加えて、左利きの客専用の箸(ロゴの向きで区別)を用意するといった細やかな心遣いも、きちんとした仕事ぶりと専門性を裏付けるポイントだった。
数年後にまた訪れるのが楽しみだ〜
Respiración
石川県金沢市博労町67
ランチ/ディナー
20,000円〜29,999円
https://respiracion.jp/
月6日休み

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