山崎|美味しい料理と居心地の良い板前こそが王道

東京のレストランの中で、西麻布の「山崎」は間違いなく訪れたいと思うwish listに入る一軒だ。

31歳で独立開業し、開業からわずか3か月でミシュランの星を獲得した若きシェフ、山崎志朗氏は、東京の料理人の中でも際立って個性的で目を引く存在と言っていいだろう。数々の有名店とのコラボレーションも重ねており、今年上海で行われた頭灶とのコラボディナーも軒並み好評だった。

山崎氏のすごさは、伝統的な料理と現代的な感覚をうまく融合させているところにある。食材本来の特徴を残しながら、そこに新しい風味や体験をひとつ加えてくる。優れた食材と的確な創意工夫に加え、居心地の良い接客スタイルと、お酒が進む板前——正直、好きにならずにはいられない。

栗の渋皮煮の唐揚げ

着席してすぐ、山崎さんが鰹節を削っている姿が目に入った。初秋に切り替わったばかりの新しいメニューでは、軽くとろみをつけただしに、揚げた渋皮煮の大きな栗を合わせていた。

これはよく知られた、日本の秋を代表する伝統菓子と言っていい。栗の内側の渋皮を残したまま甘く煮たものだが、山崎氏はいつもと違い、それに衣をつけてもう一度揚げ、仕上げに刻んだ栗をかけている。

蓋を開けた瞬間、栗の新鮮な香りがふわっと立ちのぼる。ふっくらとした大きな栗は甘みの中にほのかな苦みを帯び、だしに浸った衣は旨みをたっぷり吸い込んでいて、栗の柔らかさとは対照的な食感を生んでいた。

香り高く、体が温まる——最初の一皿からすっかり心をつかまれた。

伊勢海老と菊の酢の物

定番メニューの伊勢海老は、秋のメニューでは酢漬けにした赤い菊と菊の葉と合わせられていた。

昆布締めにした大きな伊勢海老の身は締まっていて弾力があり、酸味が海老本来の甘みを引き立てる。身の間に忍ばせたエビ味噌がさらに旨みを底上げしていて、ストレートな満足感の中にも細やかさがあった。

山崎さんがすすめてくれたのは紀土の無量山で、その澄んだ透明感が料理とちょうどよく響き合っていた。

松茸のお粥

アコウと松茸のお椀

L字型の板前では、山崎さんがまず松茸や数種のきのこを丁寧に切り分け、その後ろの小鍋で手際よく炒めている様子が見えた。

松茸は二通りの食べ方で供された。まずは雑炊で胃を落ち着かせる。小さな一杯だが香りが良く、きのこの歯切れの良さと米粒のふっくら感が絶妙に両立していた。先ほど炒める際にたっぷりの塩を振っていたのを見ていたが、塩気で旨みを引き出すそのやり方には思わず黙って唸ってしまった。

もう一つはアコウと胡麻豆腐を合わせた清汤(お椀)。大きめに切られた松茸は食べ応えがあり、噛むとコリコリとした歯応えがある。胡麻豆腐は濃厚な胡麻の香りとやわらかな食感で、はっきりとした対比を生んでいた。

器も漆器と磁器の間で切り替わり、それに応じて食器の趣も変わっていく。細部に伝統的な美意識と作法がにじんでいた。

甘鯛の松笠焼き パレルモソース

甘鯛の脂が最も乗る時期ではなかったが、松笠焼きと軽い燻しの技法によって、魚肉本来のきめ細やかさがちょうどよく引き出されていた。

その下には自家製のパレルモソース。パプリカ、トマト、オリーブオイルが植物の香りを際立たせ、魚のほのかな脂感とよく合っていた。

太刀魚の揚げ物

秋の懐石で揚げ物によく使われる太刀魚だが、山崎氏の手にかかると、軽やかな空気感と香りを両立させていた。揚げたことでかえって重たくならず、口の中で一瞬の華やぎを太刀魚に与えていた。

赤身の肉料理の前に置かれ、脂の乗りで秋の気配へとつなぎつつ、軽やかな歯切れでコース全体のリズムを整えていた。

この頃には一本目のワインもそろそろ底が見え始め、山崎さんのおすすめでその夜二本目のワインを選んだ。抜栓から状態の確認まですべて彼自身がこなしていて、料理とサービスを一人で兼任しているにもかかわらず、実に手際よく進めていた。

彼の調理服に付けられたソムリエの小さなバッジに気づいた。自分のワインリストを熟知しているシェフというのは、板前でお酒を飲む上で大きな加点要素だ。

鳩の焼き物

遠くから山崎さんが鳩を焼き台にのせるのを見て、一気に期待が高まった。彼自身、鳩料理は「納得のいく仕上がりでなければ絶対に客に出さない」と語っていたことがある。

期待を裏切らない仕上がりだった。火入れは三分程度、ほんのりピンク色の血色が透けている。炭の香りに支えられ、鳩肉本来の香りはほとんど「野生味」と「血の匂い」の境界線ギリギリまで引き出されていた。

黒い焼き鳩骨のソースと白い煮出した鳩骨だしの組み合わせは面白いが、鳩肉にまとわせるのはあくまで控えめで、あくまで鳩肉そのものの食感と香りを引き立てることに重きが置かれていた。

秋刀魚のご飯

にしんのお茶漬け

山崎さんの料理は品数こそ多く見えないが、どれも量はしっかりしている。主食に至っては釜飯とお茶漬けの二種類まで用意されていた。

一方はストレートな満足感で、秋刀魚は脂が黒くなるまで炙られ立ちのぼる香ばしさが、青物の清々しい香りと対比を成す。もう一方は甘く漬けて干したにしんで、じっくりと沈んだ香りが茶の中でふわりと広がる。杯を重ねたあとに、胃に落ち着く満足感があった。

ジャスミンのアイスとクロイチジク

最後のデザートも強烈だった。99年のサロンでソースを仕立てていて、その香りが板前全体にふわっと広がった。

アールグレイのアイス自体も負けていない。強烈な滑らかさと美しい茶の香りに加え、器の一番下に隠れたメレンゲが軽やかな甘さを添えている。それだけでなく、締めにはガヤのグラッパがアイスにかけられ、口の中で感じる甘さを引き締めていた。

見た目こそ食材使いが「豪快」だが、表現そのものは繊細で完成度の高いデザートだった。

料理も板前の雰囲気も、完全に自分の好みの美意識にはまる。どの一皿も、山崎さんの手にかかると立体的で、細部まで行き届き、完成度が高くきびきびとした仕上がりになる。

そこには伝統的な職人技と美意識が見える一方で、現代的な融合要素を取り入れたことによる、より多層的な板前体験も感じられる。時に「乱暴」とも言える手法で視覚と嗅覚に強いインパクトを与えつつも、皿に盛られた瞬間には細部までしっかりと仕上げられている。

ようやく、噂に聞いていた「山崎の輪郭のある料理」がどういうものか理解できた気がした。

お酒好きの方は8:30スタートの二部を選ぶと、より余裕のある体験ができるはずだ。山崎氏が一本一本のワインを手際よくさばいていく様子も、板前での心地よい体験を支える大きな加点要素だった。

山崎

東京都港区西麻布1-15-3 西麻布UOUビル 1F

火曜日〜土曜日

17:30〜23:00

https://yamazaki0823.com/j/

Chef’s Menu 44,000円++

大好きな店。これから訪れる季節をひとつも逃したくない。

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