ひき田|伝説の焼鳥料理人、王者の帰還

開店から一か月というタイミングで、伝説的な予約困難店「薪鳥 新神戸」を独立した疋田豊樹大将の新店へ。

輝かしい過去👉薪鳥 新神戸|東京で最も予約が取れない焼鳥店、代わりの利かない一軒

半年ほどの準備期間を経て、まさに王者の帰還という風格。

旧店は薪火で名を馳せたが、新店では薪火だけに縛られてはいない。近火・遠火の薪と煙の使い分けに加え、炭火と熾火にも余地を残す。多様な熱の伝え方への巧みな挑戦が見える。

薪火は木の香りと燻香を、炭火はより直接的な焦げ香と締まりを、熾火はじっくりと熱を食材の内部まで浸透させる。鶏の品種、部位、厚み、脂の違いが、疋田の板前でそれぞれの個性と魅力を見せる。

比内地鶏もも肉|薪火焼き

鹿児島きさ輝地鶏むね肉

席に着くなり焼鳥から始まるのはいつも通り。

薪火で焼いた比内地鶏のもも肉は、一口目から言葉にしにくい香りをまとう。木の香りと炭の香りが煙のように鶏肉に絡みつき、肉汁もしっかり閉じ込められている。比内地鶏本来の筋肉質な力強さがあり、脂と肉の香りが噛むほどにじわりと滲み出てくる。

貴重な生食可能な鹿児島きさ輝地鶏のむね肉を刺身にし、鶏肉の粉末を添えて。むね肉はしっとりと繊細に仕上げられ、白身魚の刺身のような滑らかさすらある。ただ塩気がやや強めで、後半になると塩味が少し立ってくる。

枝豆と鶏出汁の茶碗蒸し

鹿児島きさ輝地鶏もも肉|炭火焼き

湯気の立つ茶碗蒸しが運ばれてくると、鶏出汁のはっきりとした旨みの香りが漂う。枝豆の甘みが卵をより柔らかく包み込み、心地よい繋ぎとなる。

先ほどの刺身と同じ鹿児島きさ輝地鶏だが、今回はもも肉を炭火で。先の薪火の比内地鶏もも肉と、実に分かりやすい対比をなす。

炭の香りがより強く、肉質もより締まっている。炭火のこの一串は表面がより率直に締まり、香りは切れがよく、味わいも凝縮されている。

鶏肉と焼き方の個性がはっきりと対比された一組。他の店ではなかなか出会えない。

長州鶏レバー|薪火焼き

しいたけ|薪火焼き

とうもろこしのスープ

満点のレバー。

焼く間にタレを軽く数回くぐらせ、表面はほのかに香ばしく、歯を入れれば中はまだ柔らかい。レバーの香りは清らかで臭みは一切なく、甘みの加減も絶妙。ねっとり感だけを追求するのではなく、外の香ばしさと中の柔らかさの間に層を残し、香りが広がる余地を作っている。

しいたけは純粋で新鮮なきのこの香り。燻香はごく薄く表面に留まり、食材本来の清らかな香りを消していない。

比内地鶏むね肉|炭火焼き

長州鶏はつ|薪火

先ほどのレバーの幸福感に続き、この二串はまた別の驚きをくれる。

皮付きのむね肉は炭火で黄金色にパリッと焼き上げられ、中の肉は実に柔らかい。柚子胡椒がのることで香りが一気に引き立ち、むね肉本来の平坦な味わいにも表情が生まれる。

長州鶏のはつは薪火で焼かれ、心地よい歯切れの良さを残す。表皮の薄い膜は火で締められ、一口噛めば弾ける肉汁がかえって澄んだ味わいに感じられる。甘みとはつ本来のシャキッとした食感が一層引き立ち、弾力と肉汁を伴って、噛むほどに香りが増していく。

ブロッコリー|薪火焼き

比内地鶏すね肉|炭火焼き 豆苗添え

シンプルに見える焼きブロッコリーこそ、馴染みの食材に新たな次元の美味しさを与え、深く印象に残る。

表面には薪火由来のほのかな焦げ香があり、中にはまだ水分が残る。ミルキーな香りと歯切れの良さがあり、火加減がすべてを決めている。

豆苗の下に隠れているのは、炭火で焼いた比内地鶏のすね肉。この一切れは実に締まっていて、繰り返し噛む必要がある。だがその咀嚼感こそが、皮下の脂の香りを少しずつ引き出してくれる。豆苗の清々しさと酢の香りも絶妙な塩梅で、噛むほどに香りが増し、まったく飽きが来ない。

パプリカ|薪火

鶏むね肉のペースト|炭火焼きトースト

席に着いてからずっと炉の上に架けられ、遠火・近火・煙の間を行き来していたパプリカが、ようやく食卓へ。

甘みが純粋に凝縮され、複雑な味付けはなく、時間と火加減がじっくりと引き出したパプリカ本来の甘さだけがある。疋田さんが薪鳥新神戸時代に印象的だったパプリカソースを思い出させる。新店では作り方を変えても、その完成度は変わらず見事。

鶏むね肉のペーストと炭火焼きトーストは、疋田さんの板前を代表する定番。トーストの香ばしさ、ペーストの繊細さ、チーズの香りが一口にぎゅっと凝縮され、この上ない満足感。

単体でも十分に見事だが、パプリカを加えることで甘み、塩気、そして瑞々しい植物感が一緒に立ち現れ、層はより豊かに、口当たりはより軽やかになる。

鶏の肩肉|薪火焼き

比内地鶏の手羽元と葱|炭火焼き

薪火で焼いた鶏の肩肉に、本来辛くないはずの青唐辛子を合わせると、思いがけないほのかな辛さがより深い記憶を引き出す。

肉質は締まり、旨みも十分で、後味には甘みが残る。皮はぱりっと焼き締められ、噛み進めるうちにじわりと脂の香りが立ち上る。美味しく、そして飽きのこない一串。

比内地鶏の手羽元は今度は炭火で。骨の部分を外し、白くやわらかい長葱を詰めている。鶏皮は弾力がありながらパリッとし、骨周りの肉は香りが豊か。葱の甘みがその上にのることで、炭火の香ばしさと鶏の脂の旨みが引き立てられる。肉自体は多くないが、食べる者を幸せにする一串。

きさ輝地鶏と葱の手巻き

鶏そぼろご飯(ミニサイズ)

ここまで来て心はすっかり満たされ、この後は釜飯で締めくくりかと思いきや、

疋田さんはこれだけの串を焼いた後にも、なお三品の主食を用意していた。

先ほど登場した鹿児島きさ輝地鶏と小葱の手巻き。受け取った瞬間、炊きたてのご飯の湯気にはっとさせられる。海苔で包めば、鶏肉のきめ細やかさ、米の旨みの香り、わずかな香ばしさが一体となり、一瞬本当にマグロの中トロを食べているような感覚に陥る。行者にんにくが香りの幅をそっと広げ、柔らかな旨みの中に清々しい辛香を添える。

鶏そぼろご飯は、旧店の乾いた重い薪火の印象を一新している。しっとりとした食感、ほのかな甘み、葱と韮の香りが記憶に残る。柔らかな肉汁を伴い、実に心落ち着く一皿。

手打ち二八蕎麦(ミニサイズ)

疋田さんには過去に蕎麦を手打ちしていた経験があり、自身の店となったこのメニューの締めくくりに、自分自身の人生の記憶を一片加えている。

実に完成度の高い蕎麦。

蕎麦の香りは清らかで、冷たい鶏出汁も控えめ。焼鳥の濃厚な香りから、食事全体をゆっくりと静めてくれる。

ミルクと黒糖のかき氷

そして一杯のかき氷のデザートも、彼自身のこだわり。長年のかき氷愛好家として、食事の締めくくりに焼き台を離れ、自らの手で作るかき氷で一食に句点を打つことを選んでいる。

氷は軽く、ミルクと塩が香りを運ぶ。一番下まで掘り進めると、黒糖がやわらかな甘みを加える。まるで黒糖タピオカを丸ごと入れた塩ミルクティーのようで、幸福感がもう一段引き上げられる。

本当に久しぶりに食べたが、変わらず神がかっていた。

疋田さんの店が閉まっていたこの数か月、東京の他の焼鳥店にも多少なりとも足を運んだ。美味しい、満足だと言える店もあったが、疋田さんの料理を再び口にして初めて「神がかっている」という言葉がふさわしいと感じた。

火加減がもたらす火通りと香りの一つひとつに的確な判断があり、鶏肉の種類ごとの脂と肉質にも自分なりの見解を持つ。疋田さんの焼鳥はまさに代えの利かない、繊細で精緻、唯一無二の存在。

鶏肉が引き締まり脂が乏しくなりがちな夏場でも、これだけの仕上がりを見せてくれるのは、実に驚きだった。

新店にわずかな物足りなさがあるとすれば酒肴の完成度だが、それこそが次の訪問への強い期待を抱かせる。「ひき田」がさらに馴染んでいく姿を、心から楽しみにしたい。

ひき田

Thursday – Monday

17:30 – 23:00

Omaskase Menu ¥20,000

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